欧州:コロナ禍で政府と国民は運命共同体

欧州は目下、新型コロナウイルスの第2波の襲撃に直面し、その対応に苦しんでいる。フランス、ベルギー、チェコでは既に第2のロックダウン(都市封鎖)を実施し、英国もそれに続く方針だ。例えば、ドイツやオーストリアは可能な限り、経済活動を継続するために通常の商業活動(レストランやカフェは閉鎖)はキープし、新型コロナ対策と国民の経済活動のバランスに腐心している(通称部分的ロックダウン、ロックダウン・ライト)。

その一方、政府の新型コロナ規制が再び強化されるため、欧州各国で政府のコロナ規制に抗議するデモや集会が開かれ、一部では警察隊と衝突するケースも出てきている。

コロナ規制に関する政府声明を発表するメルケル独首相(2020年10月29日、独連邦議会で、独連邦政府公式サイトから)

欧州の経済大国、ドイツは新型コロナ対策のために第2のロックダウンを今月末まで実施中だが、メルケル政権のコロナ対策を批判する極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は先月30日、連邦議会に政府のコロナ対策とその関連法に対する調査委員会の設置と、コロナ関連法とドイツの基本法(憲法に相当)との整合問題に関する憲法訴願の2件の提案を提出したが、いずれも反対多数で否決されている。

ところで、欧州の極右政党はAfDだけではない。オーストリアの「自由党」も新型コロナ感染防止の措置には批判的で、マスクの着用に対しても消極的だった。コロナ感染問題に対して欧州の極右政党は程度の差こそあれ、規制強化には強い抵抗を示してきた経緯がある。

ちなみに、独週刊誌シュピーゲルは「ドイツでは右派政党支持者はショッピングや公共運輸機関の利用の際のマスク着用には他の政党支持者より強い抵抗がある」と報じたことがある(「極右派はアンチ・マスク傾向が強い?」2020年8月18日参考)。

以下、新型コロナの新規感染者が増加する中、連邦議会に提出されたAfDの2件の提案を少し追った。その際、海外中国メディア「大紀元」独語版(10月31日)のエリック・ルシュ記者の記事を参考にした。

AfDは連邦議会では89議席を有する第3党だ。連邦議会で2件の提案に関する第2、第3読会が行われた。第1の提案、メルケル政権のコロナ対策に関する調査委員会の設置問題では、519議員が反対、賛成は75議員に過ぎなかった。調査委員会を設置するためには少なくとも148票が必要だった。

第2の提案は、メルケル政権が施行したコロナ関連法がドイツの基本法と整合しているかを連邦憲法裁判所に問う憲法訴願だ。具体的には、現行の感染保護法(5条2項1から8)が基本法(基本法93条1項2)と整合しているかだ。同案は552議員が反対、賛成は74議員、1議員は棄権に回った。同憲法訴願には156議員の賛成が必要だった。

2件の提案を連邦議会に提出したAfDのトーマス・ザイツ議員は、「メルケル政権は新型コロナ感染が始まった当初、新型コロナの脅威を無視し、国内のマスクを外国に提供。感染が深刻になると、今度はマスクの輸出を禁止して世界の笑いものになった。政府は3月中旬にパニックに陥り、新型コロナ対策を180度変更し、慌ただしく対策に乗り出した。その結果、メルケル政府はわが国を緊急事態下に陥れ、国民経済と社会活動を停止に追い込んだ。その際、わが国の基本法を部分的に失効させ、マスクの着用を政府の規制に対する忠誠のシンボルのように強要してきた」と批判している。

それに対し、与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)のパトリック・シュニーダー議員はAfDの提案について、「新型コロナ感染が続いている時、連邦議会で採択されたコロナ関連法の是非を問うことは不合理だ。AfDの提案は同党のコロナ陰謀説に基づいたものだ」と反論している。

隣国オーストリアでも同じような議論が国民議会で展開したことがある。同国の場合、クルツ政権が最初のロックダウンを実施した際のコロナ関連法が憲法に違反しているか否かで議論が湧いた。

例えば、外出制限は憲法で保障された国民の自由を奪っているうえ、外出制限を無視した国民に対し警察官が告訴することは許されるかといった指摘だった。クルツ政権は最終的にはコロナ関連法の一部修正に追い込まれた経緯がある。その意味で、AfDの2件の動議は決して突飛な提案ではなく、欧州ではどの国でも程度の差こそあれ、直面している問題だ。

新型コロナの感染問題は政府と国民にとって初体験であり、メルケル政権やクルツ政権を含む欧州のほとんどの政府はその対応では試行錯誤の状況だ。自由を享受してきた欧州の国民にとってもその自由が突然、奪われるといった状況に陥って、困惑と不安、時には怒りが飛び出している。これが欧州の現状だろう。AfDは国民の反応を読み、メルケル政権を揺さぶっているわけだ。

夏季休暇が過ぎ、第2波が欧州全土を席巻し、感染者ばかりか、感染者の重症化が増加してきている。政府のコロナ対策への批判や憲法議論にエネルギーを使っている余裕はない。

政府関係者は他国の指導者と連携を強め、感染防止で成果を挙げている国があれば、そこから知恵を借りるなど、柔軟に対応する必要があるだろう。国民は政府が決定したコロナ規制を遵守すべきだ。世界で1日現在、累計感染者数は約4620万人、死者は120万人を超えている。戦後最大の試練に直面している政府と国民は運命共同体だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。