スイス系UBSが三井住友信託と「手を組む訳」

三井住友トラスト・ホールディングスとスイス系プライベートバンクを運営するUBSが、合弁で富裕層向けの新会社を設立しました。

来年、UBSのウェルスマネジメント部門が分離し、三井住友トラストが49%を出資する証券会社が誕生する予定です。

日本の信託銀行大手と、スイスのプライベートバンクの共同事業。果たしてうまくいくのでしょうか?

三井住友信託銀行は、私が最初に入社した銀行(当時は住友信託銀行)です。日本の銀行にしては珍しく、ユニークなサービスを次々と打ち出し「一風変わった銀行」として知られていました。三菱グループとは異なり、住友銀行とは同じグループのライバル銀行として対抗し、独立を維持しています。メガバンクとは規模では、大きな差が付いていますから、サービスで差別化するしかありません。

今回の共同事業も、従来の日本の金融機関の概念にとらわれない新しい試みといえます。

三井住友トラスト・ホールディングスにおけるUBSとの合弁のメリットは、UBSブランドの獲得と思われます。スイス系プライベートバンクのブランド力を活用し、他社の富裕層顧客を取り込んだり、今まで資産運用にあまり積極的ではなかった富裕層の獲得のきっかけにできます。

UBSにとっても今回の提携は、三井住友銀行が持つ富裕層顧客の取り込みにつながります。日本においては必ずしも知名度が高いとはいえず、自前のマーケティングでは限界があり、大手信託銀行の優良顧客にアクセスできるのが魅力とみられます。

では、顧客にとってのメリットは何なのでしょうか。

私はスイス系プライベートバンクで仕事をした経験もありますが、そこで感じたことは金融機関であるため実物資産の情報提供に限界があることでした。

金融商品には「歪み」がありませんから、プライベートバンクといえど、錬金術のような魔法の商品がある訳ではありません。手数料が高い分、不利になることさえあるのです。

不動産投資を始めとする実物資産の情報提供ができれば、そこに価値があります。三井住友信託銀行の国内不動産情報ネットワークが活用ができれば、顧客にとってメリットになるかもしれません。

しかし、単なるブランドと顧客リストの交換に終わってしまえば、顧客にとっての2つの金融機関のシナジーは得られません。

富裕層向けのコンサルティングサービスに関しては、手前味噌になりますが資産デザイン・ソリューションズでは、従来の金融コンサルティングサービスでは提供できなかった新しい価値を提供しています。

ビジネスの規模は大きく異なりますが、問題は規模ではなく、クオリティです。富裕層ビジネスはブランド力で決まるのではなく、最終的にはどれだけの価値を提供できるかによってその成否が決まると考えています。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。