行政が対応に苦慮する「事業者型ごみ屋敷」にご用心

芦田 祐介

今回の事案は私が議員を務める京都府久御山町内で起きた出来事だが、後述するように全国どこでも起きうる問題だ。

久御山町田井に有限会社 広村商店(登記上本店=京都市山科区、設立=2002年、資本金=300万円)という廃棄物収集運搬業者の事業地が存在する。現在は事業を停止し、同地には産業廃棄物(産廃)が大量に放置されている。さながら「ごみ屋敷」のような状態である。

衛生面、景観面のほか、周辺住民の精神的ストレスなど悪影響は大きい。堆積された産廃は自然発火することも考えられる。実際にごみ屋敷や堆積された産廃が自然発火した事例がある。台風が来れば産廃が周辺に飛散し、被害が発生する恐れもある。

私は周辺住民の相談を受けて、まずは広村商店の会社登記を調べた。解散登記等はなされておらず法的な倒産手続きは取られていないことがわかったが、ある行政関係者は「事実上の廃業」と見ていた。京都市に問い合わせたところ従前は一般廃棄物収集運搬業と産業廃棄物収集運搬業の許可を有していたが、前者については事業廃止届が提出され、後者については許可の更新を受けずに失効していたこともわかった。

さらに詳しく調べるため、京都府・京都市・久御山町の3者に情報公開請求をおこなった。そこでわかった広村商店の「沿革」は次のとおりである。

2011年頃から周辺の住民や事業者から匂い・振動・騒音・道路不法占有について久御山町に多数の苦情が寄せられた。以後、久御山町は京都府と連携して、反復継続して指導をおこなうが、広村商店は不誠実な対応に終始する。事業地に存在する堆積物は「廃棄物」ではなく「有価物」と主張した。

2014年、産廃を一般廃棄物の焼却場に多量に搬入したとして京都市から行政処分が下される(一般廃棄物収集運搬業に係る事業の全部停止20日間)。

2017年、事業地の堆積物を産廃と認定し、指導所管が久御山町から京都府に移る。同年3月、京都府が立入検査を実施。大量の産廃堆積が確認されたため改善の指導をおこなう。その後も複数回にわたり指導をおこなうが改善は確認されず。

2018年8月、京都府が改善命令を発出。命令を無視した場合は捜査当局に刑事告発も検討するとした。

2018年9月、改善命令の履行を確認。

2019年6月頃、久御山町田井と同町市田の事業地に産廃を大量に放置したまま事業を停止(事実上の廃業と思われる)。

2019年11月、久御山町市田の事業地に放置されていた産廃を土地所有者が全量撤去を開始。12月に撤去完了。

2020年11月現在、久御山町田井の事業地に産廃が大量に放置されたままとなっている。

久御山町市田の事業地は借地であり、土地所有者は立ち退き訴訟で勝訴判決を得たものの産廃が放置されている状況に困り久御山町に相談。相談を受けた久御山町は、京都府産業資源循環協会の協力を得て、最終処分先を紹介し、全量撤去がなされたという流れである(土地所有者が撤去費用を広村商店から回収できたかどうかは不明)。

一方で、現在も産廃が放置されている久御山町田井の事業地は不動産登記を調べたところ土地は広村商店の所有となっていた。金融機関等が根抵当権を設定していたほか、地方税機構や税務署などによる差押・参加差押登記は合計9件あった。久御山町も差押債権者となっていた。資産価値が皆無と思われる建物は未登記であった。

そこで9月定例会の一般質問で広村商店による産廃放置問題を取り上げた。

  1. 公売によって土地を売却する
  2. 行政代執行により全量撤去をおこなう
  3. 特定空き家に指定する
  4. 久御山町が裁判所に破産または会社解散命令の申し立てをおこなう

…といった提案型質問をぶつけたが、いずれも前向きな答弁を得られなかった。

町長に今後の対応について尋ねたところ

京都府山城広域振興局長、保健所長、土木事務所長に対して指導強化と適正な対応を要請した。現在は硬直した状況ではあるが、今後も府と連携した改善要求を粘り強くおこない、解決に向けた糸口を見出していく。

との答弁であり、はっきりとした解決方法は示されなかった。下手をすれば5年後10年後もこのままの状態ということも考えられる。

現在、コロナ禍において戦後最大の経済危機となっている。広村商店のような廃棄物処理業者、あるいは解体業者などがきちんとした廃業・清算手続きを取らずに事業を停止して事業地に廃棄物が放置されるといった事案はどこの地域でも起こり得ることである。

本件事案のように私有地であっては行政としても手出しするのが難しい。個人によるごみ屋敷問題はどの自治体も対応に苦慮しているが、今回のケースのような「事業者型ごみ屋敷(空き地)」についても同様といえる。横浜市のウェブサイトでは注意喚起がなされているが、廃棄物を保管する業者と土地の賃貸契約を結んでいる土地所有者・管理者はとくに用心する必要がある。