ジョージア州当局が6日、票の再集計を決めるなど開票の混乱が続き、いまだ雌雄決着しないアメリカ大統領選。民主党バイデン候補の優勢を認めず、投票の不正を訴えて訴訟を乱発するトランプ大統領の悪あがきに対して、アメリカのみならず、世界が困惑を隠せない。
今、2008年大統領選でオバマ前大統領に敗れた共和党のレジェンド、故ジョン・マケイン氏と、前回2016年にトランプ大統領に敗れた民主党のヒラリー・クリントン氏の「敗北宣言(コンセッションスピーチ)」に再び注目が集まっている。ともに、「歴史に残る名スピーチ」とされる二人の敗戦の弁を見てみよう。
まずは、ジョン・マケイン氏の2008年のコンセッションスピーチ(拙訳)
友よ、私たちは長い旅路の終わりを迎えました。アメリカ国民は、意思表示をしました。明確な意思を伝えたのです。少し前、オバマ氏に電話し、私たち双方が愛するこの国の次期大統領に選ばれたことに対して祝意を伝えました。
この長く困難な選挙にオバマ氏は勝利しました。それだけで私は、彼の能力と忍耐を尊敬せずにいられません。しかし彼はそれだけではなく、何百万人ものアメリカ人、かつて自分たちはアメリカ大統領選にはなんの関係もない、あるいは何の影響力も持たないと誤って信じていた何百万人ものアメリカ人に、希望をもたらしたのです。私は彼の偉業に深く感服し、それを讃えます。
これは歴史的な選挙でした。アフリカ系アメリカ人にとって、これがいかに重要な意味を持つか、私は承知しています。そしてこの特別な栄誉は、今夜、彼らのものになったのです。
(中略)
オバマ氏と私には意見の相違があり、議論してきました。勝利したのは彼なのです。相違は残るでしょう。この国は困難に直面しています。これからオバマ氏がこれらの困難を超えてこの国を導いていくのを全力で支援することを、私は今夜、お約束します。
私を支えてくださったすべてのアメリカ人にお願いします。オバマ氏を祝福するだけでなく、私と共に、この国の次期大統領を善意と全力で支えていただきたい。共に歩み、譲り合い、互いを尊重し、危機に直面しているこの世界において、アメリカの繁栄と安全を取り戻すのです。そして、私たちの子どもや孫たちに、より強く、より良い国を受け継いでもらわなければなりません。
どんな違いがあっても、私たちはみな、等しくアメリカ人なのです。このつながりほど、私にとって大切なものはありません。
このように、マケイン氏はいさぎよく敗北を認めた上で、オバマ氏と黒人アメリカ人を讃え、さらには、党派間の分断の克服とアメリカの団結を訴えたのだ。党派を超えて尊敬を集め、闘病の末に2018年に亡くなった際は国中が一週間以上喪に服したほどの大人物と比較するのも申し訳ないが、トランプ大統領にこのようなスピーチができるのだろうか?
続いて、2016年、そのトランプ氏にまさかの敗北を喫したヒラリー・クリントン氏のコンセッションスピーチ(拙訳)
昨晩、ドナルド・トランプ氏にお祝いと、アメリカのために彼と共に奉仕させていただきたい旨、申し上げました。すべてのアメリカ人にとって彼が良き大統領になってくれることを願っています。今回の結果は、私たちが望んでいたものでも、そのために努力してきたものでもありませんでした。この国のために私たちが共有する価値観や未来像のために戦ってきましたが、この選挙に勝てなかったことは残念でなりません。
(中略)
この国は、私たちが思っている以上に分断されていることが分かりました。それでも私は、アメリカという国を信じているし、これからもそうであり続けるでしょう。皆さんもそうであるならば、この結果を受け止めて、未来へ向かいましょう。ドナルド・トランプ氏が私たちの次の大統領です。私たちは彼に、広い心と国を導くチャンスを託すのです。
(選挙戦を共に戦った仲間たちそれぞれに心のこもった謝辞を伝える。そして、若者に対して、挫折に負けず信念を持って戦い続けるよう呼びかける)
そしてすべての女性、とりわけこの選挙戦と私を信託してくれた若い女性たちにお伝えしたいのは、あなたたちのために戦えたことを、これ以上ないほど誇りに思っているということです。
高く困難な「ガラスの天井」を突き破ることは未だ叶いませんでした。けれども、いつか誰かが、きっと私たちが今考えているよりも早く、それを成し遂げてくれることでしょう。
マケイン氏同様、素直に敗北を認めてトランプ氏にエールを送った上で、若者や女性たち後進に希望を託したこのスピーチは全米の感動を呼び、選挙中、「嫌われ者」呼ばわりされていたヒラリー・クリントン氏の評価が一夜にして一変したほどだった。
さて、残る激戦州でリードを広げ、勝利宣言間近のバイデン氏。バイデン氏の大統領就任に伴い、カマラ・ハリス氏が米国初の女性副大統領に就任し、さらには大統領そのものの座も射程圏内に入ってくる。ヒラリーが「高く困難な」と評した「ガラスの天井」を今まさに突き破ろうとしているハリス氏だが、黒人女性たちからは、こんな冷めた声も聞こえてきている。
「ハリスが華々しくガラスの天井を突き破ったとしても、私たちはただその破片を浴び、後始末をさせられるだけ」