地味なバイデンがオーラの勝利宣言
米大統領選を戦ったバイデン氏とカマラ・ハリス氏の勝利宣言をテレビで見て、米国の復元力の凄さに感服しました。両氏はオーラに満ち溢れ、演説会場は盛り上がり、「これが米国の裸の姿だ」と思いました。
最高権力の座がアドレナリンを生む。オーラではトランプ氏に圧倒されていた地味なバイデン氏が別人のようでした。敗北したトランプ氏は、肩を落として悄然、かれらの姿は好対照でした。政界のアウトサイダーから中道派の重鎮へ振り子は戻りました。トランプ氏はポピュリストというより、希代のアジテーターと呼ぶのがふさわしい。数々の暴虐、暴言、独断が非難されても、7100万票もとりました。「取り残された人々」は傍若無人の振る舞いを問題視せずに、トランプ氏の支持を続けました。今後もそういう社会構造なのでしょう。
そのアジテーターはバイデン氏に敗北することで、米国の持つ政治的復元力の存在を証明してくれました。トランプ氏は大統領選挙戦を目で見て分かる超絶ドラマに仕立ててくれました。役者です。
直接選挙、間接選挙の違いはあっても、密室の駆け引きでトップが決まる日本に失望を感じます。国会審議も日本学術会議の会員任命が焦点になりました。これで厳しさが増す国際社会を生き延びていけるのか。
政権交代や政治対立があるから、政治エネルギーは高まる。野中の一本杉か一本松のようでは、風雨に弱く、政治は平凡になる。日本の野党はどうして、こうも非力なのだろうか。
トランプ氏は国際機関、国際協定、同盟国との国際関係を所かまわず、破壊してきました。前例踏襲の打破というより、破壊です。日本の首相がいう官僚組織の縦割り是正、ハンコ廃止と異次元です。
バイデン氏について、認知症の疑いがあると指摘する声がありました。勝利演説からは、その気配が微塵も感じられない。記憶がとっさに出てこない高齢者特有の症状を誇張する連中がいたのでしょうか。
カマラ・ハリス氏は、真っ白なスーツに身を固め、美しいロングヘアをなびかせ、ゆったりと間合いを取ったスピーチには好感が持てました。
While I may be the first, I won’t be the last. pic.twitter.com/R5CousWtdx
— Kamala Harris (@KamalaHarris) November 8, 2020
母親はインド系、父親はジャマイカ系という混血で、初の黒人の副大統領です。もともと移民社会ですからこういう選択が現実になるのでしょう。高齢のバイデン氏の後継大統領になる可能性がささやかれます。
「結束と和解」を呼び掛けるバイデン氏の7400万票に対し、トランプ氏は7100万票を獲得し「違法な投票を除けば、私の勝ちだ」として、法廷闘争を続け、米国社会の分断を煽り続けるようです。
分断を煽るというより、米国社会の分断に目をつけ、政治的な争点に仕立てあげ、大統領選を戦ったアジテーターというのが正しいのでしょう。ですからバイデン氏が大統領になっても、社会の分断は続く。
無謀だと言われながらも、トランプ氏が法廷闘争を続けるのは、実は、4年後の大統領選に再出馬する布石ではないかとの見方もできます。法廷闘争を長引かせ、支持者を引き付けておく計算なのでしょうか。
高齢なバイデン氏は1期4年で大統領を降りるかもしれない。ハリス氏が遅くとも8年後に大統領選に出馬してくる可能性があります。余人の予想がつかない行動をとるトランプ氏ですから、再出馬もありうる。
最後に。米国や世界がじりじりしながら、票の行く方を見守ったのは、激戦州における郵便投票を手作業でのろのろと、開票したためでした。
「メガデータを情報処理する5G(第5世代移動通信システム)、情報が瞬時に拡散するSNS、AI(人口知能)の時代というのに、西部開拓時代からの大統領選の仕組みがまだ続いている。最新の情報技術を駆使する全米共通のシステムに改組すべきだ」
という指摘があります。
確かに手作業による開票は、5GやSNSによる情報拡散とのギャップを生み、選挙結果の遅れが無用の混乱を生みかねない。権力の空白も生じ、そこに目を付けた第三国に乗じられる機会を与えかねません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。