11月8日あたりの内外のニュースでは、米国で民主党新大統領が事実上誕生した、とのこと。早くも日経ニュースでは「バイデン氏当確、21年1月、パリ協定復帰へ」との見出しで米国の政策転換の予想が報じられています。当ブログでの関心事としては、民主党の新大統領のもとで、米国はESG重視の姿勢に舵を切る可能性が高いと予想されているところですね。
日本でもESG経営に向けた関心が高まっていることは事実ですが、経営者の方々の「ESGへの取り組みの本気度」については未知数ではないかと。とりわけコロナ禍における業績悪化が避けられない企業では、「まずは来期の浮上案を具体的に示すことが先決。ESGはその先の話」といったところがホンネだと思います。
なぜそうなるのか、というと、これまで「ESGは儲かるのか?」「ESG経営が企業価値を向上させる、ということに有意な統計はあるのか」といったところで(つまりプラスの面で)議論をしているからではないでしょうか。関係省庁の研究報告なども「取組の好事例」は紹介されていますが、「悪事例」は紹介されることは全くありません。
しかし、受託者責任を果たすにあたり、ESGへの貢献についても説明責任を負わねばならなくなった機関投資家の方々のイメージは少し異なるように思います。「日本企業は、最近でこそESGに熱心になってきたと聞くが、そもそもESGに熱心でないと、どんな不利益を被ることになるのか、具体的に誰からどんなペナルティを課されるのか」「同業他社との比較において、非財務情報の開示に積極的でないことで、過去にどのようなハンデを背負ったのか、そのような分析がなされた文献はあるのか」といった質問を私自身も受けるようになりました。
日ごろからESGの面で、(たとえば情報開示等)取り組みが積極的でない企業は、実際、このような競争制限を受ける、競争上のハンデを背負う、といった「好事例」ではなく「悪事例」を分析したほうが、日本企業と投資家との対話においては有益なツールになりえるのではないでしょうか。
今後、米国の新大統領の誕生とともに「日本企業におけるESG経営」への関心が高まるのであれば、「当社はESG経営を積極的に推進することによって、他社に起きた「このような悪事」を回避しています」といった(マイナス面での)議論を活性化させるほうが説得力を増すように思います。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年11月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。