アルプスの小国オーストリアでも新型コロナウイルス(covid-19)の新規感染者が急増し、今月3日午前零時に施行された第2ロックダウン(都市封鎖)の効果はまだ数字としては表れていないうえ、同国では州別(9州)に新規感染者の動向に大きな相違が現れてきている。
オーストリアで3日午前零時(日本時間同日午前8時)、新型コロナウイルスの感染防止のため第2のロックダウン(都市封鎖)が実施された。期間は4週間の予定だ。感染対策は第1回のロックダウン(3月)の措置に加え、午後8時から翌日午前6時まで外出禁止。商業営業は午後7時まで開かれるが、レストラン、喫茶店は閉鎖され、文化・スポーツイベントはほぼ中止されている。プロのサッカーは無観客に制限。
オーストリア保健・食品安全局(AGES)の発表によると、10日午前8時(現地時間)段階で累計感染者数16万4075人、死者数1454人、回復者9万4627人、入院患者数3228人、集中治療患者数473人だ。
10月、人口比で感染者数はフォアアールベルク州、チロル州、ザルツブルク州の3州で増加が著しかったが、11月に入ると、オーバーエスターライヒ州が急増してきた。感染症対策は基本的には州政府の担当だが、クルツ政権は新規感染者の増加が今後も続くようだと、追加措置が必要になると受け取っている。その際、第2次ロックダウンの対象外だった学校の閉鎖が囁かれ出している。
オーバーエスターライヒ州は過去8日間、新規感染者数は連日1000人を超えた。7日は2000人を超えた。そのため、10日から老人ホームや病院の訪問は著しく制限された。感染者に接触した人は即、検査を受け、結果とは関係なく隔離するなどの対策を講じてきた。
AGESの統計によると、9日午後2時段階(現地時間)で過去7日間の人口10万人当たりの感染者数では、オーバーエスターライヒ州が730人でトップ、フォアアールベルク州715人、チロル州642人、ザルツブルク州588人だ。急増してきた州としては、ブルゲンラント州449人、シュタイアーマルク州447人、ケルンテン州362人の3州だ。オーストリアの平均値は474人。第2次ロックダウンの効果がまだ見られないが、首都ウィーン(特別州)では感染者数の減少傾向が見られ、10万人当たりの新規感染者数は267人で同国では唯一、300人以下だ。
アンショーバー保健相は8日、「新規感染者数が減少せず、上昇が続くようだと集中治療用ベッド数に限界が見えてくる」と警告を発している。同国では約1000の集中治療用ベッドがあるが、10日現在、集中治療患者数は473人だ。
新規感染者の増加が続き、治療必要な患者数が増え、集中治療の必要性が高まると医療崩壊が起きる。同国の医療関係者は、「集中治療用ベッドはまだ余裕あるが、患者をケアする高度の医療技術を有する医者、看護師の不足が出てくるだろう」と指摘し、ベットの数以上に、人材不足が深刻だという。
ところで、新規感染者を抑制するためにどのような措置がまだ可能だろうか。そこで考えられるシナリオは学校の閉鎖だ。第2次ロックダウンでは高学年、大学ではディスタンスラーニングが行われているが、低学年の場合、学校で授業を受けてきた。
問題はクルツ政権下では学校の閉鎖ではコンセンサスがまだないことだ。クルツ首相(国民党)は学校の閉鎖を主張する一方、ファスマン教育相(国民党)やアンショーバー保健相(緑の党)、そして2、3の州は学校の閉鎖(Bildungslockdown)に反対している。特に、オーバーエスターライヒ州やブルゲンラント州は学校閉鎖には強い抵抗がある。
現地メディアによれば、第2次ロックダウンを実施してからまもなく2週間が過ぎるため、12日には学校ロックダウンを実施するかなどの追加措置について決めるという。学校が閉鎖された場合、両親は自宅に留まらざるを得なくなるケースが出てくる。両親も仕事があるから大変だ。15歳以下の子供を持っている国民は全体の31%になるが、その中でも親が仕事で留守の間、子供を見てくれる人がいない家庭は25%になる。
オーストリア経済研究所(WIFO)は9日、「学校の閉鎖は経済的にも、社会的に大きな損失をもたらす」という趣旨の研究レポートを発表している。同時に、14歳以下の子供による感染の危険は低いというウイルス専門家の声も聞かれる、といった具合だ。
蛇足だが、オーストリアでは2日夜、イスラム過激派による銃撃テロ事件が起きたが、銃撃から逃れた多数の市民がレストランに隠れ、長時間保護されていた。その店の主人がその直後、感染したというニュースが流れてきた。covid-19は休むことがない。ウイルスはあらゆる機会を利用して感染を広げようとしているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。