ファイザーのコロナワクチン管理は何が難しいのか?

中村 祐輔

コロナ感染者数は、あっという間に世界中で5000万人を超え、米国単独でも1000万人を超えてしまった。死者の数は、130万人に迫っている。総感染者数が100万人を超えた国は、米国、インド(860万人)、ブラジル(570万人)、フランス、ロシア、スペイン、アルゼンチン、英国、コロンビア、イタリアと続いている。1日の感染確認者も、米国の約15万人を筆頭に、1万人を超えている国が14-15か国に及ぶ。

※画像はイメージです(Geber86/iStock)

そのような中で、ファイザー社のコロナウイルスワクチンは90%以上の予防効果という報道があった。4万数千人の被験者をワクチン群と偽薬群の2群に分け、ワクチン接種群で感染者数が少なかったことがその根拠だそうだが、詳細はよくわからない。おそらく約2万人の偽薬群では86人がコロナに感染したが、同じ数のワクチン群では8人程度だったという意味だと解釈している。株価に影響を及ぼす結果がこのような形で発表されるのは普通ではない。

トランプ大統領が、選挙が終わってから発表するのはフェアでないと僻むのも無理はない。もし、選挙前にこの報道がされていれば、トランプ氏は間違いなく、自分の手柄にして、選挙結果が変わっていた可能性は否定できない。

それにしても、日本のメディアは相変わらず、訳の分からないことを垂れ流している。ファイザーのワクチンはマイナス60-80度で凍結して運搬しないと安定しないから大変だと言って騒いでいたが、ドライアイスはマイナス78.5度だから、ドライアイスを入れた容器に入れて運べばいいだけだ。

完全に密閉すると気化した二酸化炭素の圧力が上がって危険だが、ドライアイスに入れた試薬や組織などの運搬は日常で行われている。何億回分のワクチンを運搬する必要があるが、一度にすべての人に注射できるわけでもないので、順次運べばいいので、簡単に解決できそうな課題だ。

東京大学の医科学研究所のバイオバンクには、マイナス196度の液体窒素タンクがあり、タンク内は気化した窒素内(マイナス百数十度)で数百万本のチュープを保管できる設備がある。ワクチンのもとになる濃度の高いものをここで管理して、日本で製剤化すれば、簡単に解決できる。

また、日本の大学には膨大な数のマイナス80度の冷凍庫が存在している。現在保管されている物を整理すれば、各大学からかなりの冷凍庫が供給できるはずだ。

医療用の医薬品には厳重な管理が求められるが、医科学研究社内の液体窒素タンクは温度のモニタリングもできるし、自動的に液体窒素が追加供給される仕組みになっている。温度が低すぎて、保管しているチューブの破損が懸念されるが、それも容器を選べば難しくないと思う。

そして、根源的になぜ超低温が必要なのか?それはRNAワクチンであるからだ。RNAを注射して、そのRNAから特定のウイルスタンパクを作り出し、それによって免疫反応が起こる仕組みだが、RNAは一般的に非常に不安定だ。油断するとあっという間に壊れてしまう。それを防ぐために超低温管理、輸送が必要となる。ワクチン溶液内でどの程度不安定なのか、知るすべはないが、簡単な理由だ。

しかし、この90%以上が本当なら、世の中は一変する。免疫がどの程度の期間継続するかは今後検証を待つ必要があるが、RNAは簡単に大量生産可能だ。何回でも、この感染症が消えるまでワクチンを受ければいい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。