「R2-D2」より優秀?! ソフトバンクの配膳ロボ「Servi」は普及するか

関谷 信之

スター・ウォーズの3作目で、「R2-D2」が給仕するシーンがあります。狭い船内で料理を運ぶ途中、相棒の「C-3PO」と衝突。飲み物をこぼしてしまいます。

最新の配膳ロボットなら、もっとうまく対処できるかもしれません。

今回は、ソフトバンクロボティクスの配膳・運搬ロボット「Servi(サービィ)」をモデルに、今後の飲食店におけるロボット導入について考察したいと思います。

性能面は、ほぼ問題なし

来年1月に発売される、「Servi」の体験会に参加してきました。

まず目についたのが「シンプルなデザイン」と「滑らかな動き」でした。文字に例えると「カタカナ」の他社製品に対し、丸く柔らかい「ひらがな」のServi。そんな印象を受けました。店舗の雰囲気を壊すことは無いでしょう。

© Softbank Robotics

配膳ロボットの役割は「運搬」です。料理を客席まで運ぶ。乗せられた皿をバックヤードまで運ぶ。その「運ぶ」作業を、いかに円滑に行えるか。「止まる」、「かわす」などを行い、障害物に対処できるか、が問われます。

その点、Serviの性能は申し分ありません。突然、機体の前に手を出しても「止まる」。足が進路に突き出でていても、滑らかに「かわす」。テーブルに座った客が、急に「伸び」をして手を伸ばしても、あたることなく「停止」できるのではないでしょうか。

今のところ、導入店舗では、大きな問題は起きていないとのこと。物珍しさから、「子供が追いかける」ことぐらいだそうです。

初期設定に必要な時間は3時間程度。主に店内地図の作成と、それをServiに「記憶」させる作業です。Serviに店内を歩かせ、地形を認識させる。入ってはいけないエリアを手作業で設定する、など。これら作業は、ソフトバンクロボティクスのスタッフが行います。

従来の配膳ロボットは、天井にシール(位置マーカー)を貼っていました。しかし、Serviは、最新のSLAM・LiDAR技術(※1)により、その必要が無くなりました。より導入しやすくなった、と言えます。

料金と効果

一方、Serviの利用料金は月額「99,800円(税別)」。しかも「3年(36か月)契約」が前提。この価格と契約体系は、大半の飲食店が「難色」を示すのではないでしょうか。導入の大きなハードルとなります。

対して、「ホール滞在時間が2倍」「1.5人分のコスト削減」「月約40万円相当のコスト削減」などの効果がウェブサイト等に掲載されています。数値で表されているものの、ややわかりづらい。筆者が最も疑問だったのが、「40万円相当のコスト削減」でした。いかにして40万円もの費用が削減できたのか?

体験会スタッフに尋ねたところ、「業種は焼肉店、導入したServiは2台、時給は1,500円で算出」とのことでした。1台あたり20万円のコスト削減。追加オーダーの多い「焼肉店」でServiをフル稼働すれば、現実的な削減額となり得るでしょう。

以下の記事に焼肉店での運用が詳しく書かれています。

焼肉店で感嘆…初めて見た、「使い倒されている」サービスロボットの姿(ビジネス+IT)

この記事の焼肉店の運用から、Serviの導入効果が高まる要因は、

1.運搬距離:遠いほど効果大
2.注文頻度:多いほど効果大
3.量:料理の種類(食器の数)が多い、または料理が重いほど効果大

の3つ、と推測できます。

つまり、店が広く、追加オーダー(特に食べ放題など)が頻繁で、注文の種類が多い。こういった店ほど、従業員の「運搬」工数が削減でき、効果が大きくなる、と言えるでしょう。

この要件を満たし、上述の料金を「難なく」支払えるのは、一定規模のチェーン店ではないでしょうか。導入店舗を見ても、「デニーズ」や「焼き肉きんぐ(物語コーポレーション)」など大手が目立ちます。

では、小・中規模飲食店が導入する可能性はあるのでしょうか。

1日2人以上、客を増やせるか

筆者が先日利用した、イタリアンレストランを事例に考察してみます。

利用したのは午後7時頃。「Go to Eat」の効果か、ウィークデーにもかかわらず、満席に近い状態でした。コロナ以降、従業員が減り、この時間は従業員1人でホールを担当していました。かなり忙しそうです。その影響で問題が2つ発生しています。

1つ目。最初のドリンクが出てくるまで15分ほどかかりました。やや不満ですね。「顧客満足度の低下」です。次回利用を躊躇するかもしれません。

2つ目。筆者の入店と入れ替わりに、テーブル客が1組出ていきました。ところが、テーブルを片付けることができず、新しい客を入れることができません。「機会損失の発生」です。

さて、この店でServiを導入すべきでしょうか。

この店の客単価を3,000円としましょう。材料費など変動費を30%(※2 FL比理想値)と見込むと、限界利益(≒粗利)は2,100円。対して、Serviの月利用料金は100,000円程度。よって、

月利用料金 100,000円÷限界利益 2,100円=約48人
48人÷営業日数25日=約2人

1営業日あたり、客数が2人以上増えるのであれば、導入となります。

先の2つの問題の解決、つまり「顧客満足度の改善」による再来店促進と、「機会損失の防止」による客回転数増加。これらによって、2人以上、客数を増加させることができるか? が、理論上の判断基準となります。

現実的には、コロナで先行きが見通せない中、「3年縛り」の高額な設備投資ができるか。難しい判断になるでしょう。

安価なラインナップを

やはり、小・中規模飲食店にとって、3年間トータルで360万円となる支出がネックとなりそうです。

上述のイタリアンレストランは、客席で料理説明をしています。よって、ロボットに料理を運ばせ、客自身にテーブルに乗せてもらう「配膳」はできません。主に使う用途は「下げ膳」に限定されるでしょう。

Serviは、客が料理を取ったかどうか検知するため、「重力センサー」を装備しています。トレーが軽くなったら、自動的にホームポジションに帰る仕組みです。「下げ膳」だけしか使わない場合、重力センサーは不要です。こういった不要な機能をカットした廉価版がラインナップに加われば、導入の敷居は低くなるでしょう。

「この子」の行く末

体験会で、ソフトバンクロボティクスのスタッフが、Serviを「この子」と呼んでいたのが印象的でした。製品への愛着と自信があるのでしょう。この優れた製品が「商品」となりうるか。メーカー側のコスト削減努力と、飲食業界の状況次第かと思います。

[ 参考 ]

※1
SLAM技術(=Simultaneous Localization and Mapping)自己位置推定と環境地図作成を同時に行う機能。

LiDAR(ライダー)とは聞きなれない言葉ですが、似た言葉でレーダーはご存知ではないでしょうか。レーダーが「電波」を用い、遠くの物体までの距離・方位を測定するのに対し、ライダーは「光」を用います。光を照射し、反射が戻る時間を測定して距離を割り出します。近距離の物を高い精度で測定することができます。自動車の自動運転で用いられている技術で、最近ではiPad Proにも搭載されています(飲食業は製造業であるより)。

※2
FLコストは、F=food(材料費)とL=Labor(人件費)を合計したものです。このFLコストが、売上に占める比率を「FL比率」といいます。適正値は60%程度。内訳は食材と人件費で半々、つまりF(材料費)30%、L(人件費)30%となっています。(飲食業は製造業であるより)