なぜ扱いが小さいRCEP?日本のリスクと私のズバリ予想

岡本 裕明

オンライン開催されたRCEP首脳会議に出席した菅首相、梶山経産相(官邸サイト)

RCEP(東アジア地域包括経済連携)が11月15日に署名されました。しかし、なぜこれほど、メディアの扱いが小さいのでしょうか?

そもそもRCEPの存在そのものは一般大衆の半分の方にも認知されていないと思います。TPPの時はアメリカの脱退、日本の主導によりTPP11としてまとめ上げたこともあり非常に盛り上がった記憶がありますが、今回は多くの方にとって「へぇ、そんなの、あったんだ?」ぐらいではないでしょうか?

客観的にみると連携加盟国は15か国、人口は30億人でEUやTPP11をはるかに凌駕する規模であります。本来であればインドがこれに加わるはずでしたが紆余曲折があり、今回の参加は見送られています。素直な見方は日本がFTA(自由貿易協定)の世界網構築において主要国を押さえ、自由貿易について極めて大きなアクセスを握ったというというのが教科書的回答なのでしょう。

ではこの教科書は正しいのか、という検証はすべきなのかもしれません。

まず、今回RCEPが署名に至ったタイミングはなぜなのだろう、と思います。2012年からその交渉がはじまったものの難産で8年もかかっています。(多国間協定はいつも難産ではありますが。)そしてここにきてインドがぐずつき始めたのですが、インドを取り込みたい日本としては決して形の良い状態ではありません。一方、ここで一気に歩を進めたのが中国でした。アメリカとの貿易外交問題が宙ぶらりんの中、大統領選の結果がバイデン氏勝利と伝えられているものの中国側の態度が煮え切らないのはなぜなのでしょうか?

中国はバイデン氏が副大統領時代に習近平氏との会談を含め、氏の分析は十分に行われています。その中、大統領就任の祝電を打ったのは11月13日とかなり遅く、プロトコル上、しぶしぶ送ったというのが私の見方です。

特にバイデン氏の年齢故の頑固さが目に余るように思え、トランプ氏のような切り崩しが困難だという判断をしている可能性はあります。(頑固さは大統領選期間のバイデン氏の言動が表しています。)とすれば何らかのアメリカの対中経済制裁は続くと考えるべきで中国にとっては不都合であります。

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RCEPはそもそも東南アジア10か国で話がスタートしたものでそれに乗っかったのが日中韓、さらにオーストラリアとニュージーランドが加わるという流れを取っています。

東南アジア諸国対しては日本と中国による切り崩し作戦が展開されていますが、軍事力、資金力、華僑を含めた人的資源と政治力では中国が有利であります。中国にとって「近隣諸国との関係強化」というスタンスから考えれば東南アジア10カ国は絶好の獲物であり、しかもアメリカは「大統領の空白期間」になっています。事実、トランプ大統領はこの週末の2日間もゴルフをしていました。RCEPは「俺には関係ない」という姿勢が見え見えなのです。

RCEPは日本にとって中国向け自動車や自動車部品のメリットがあるとされます。しかし、自動車はいずれ電気自動車にとって代わります。そのEV用については撤廃期間が10年と長く、電池は16年目以降という具合で中国にとって国内産業育成が十分できる時間を確保しています。これは誰も指摘してないでしょう。

自由貿易協定は「今日の飯か、10年後の花か」を考えるべきで日本のように人口減による工業製品開発能力や販売力の減退、一方で新規開発はアメリカと中国に圧倒的差をつけられつつある中、この「物流提携」が作り出す新しい日本の姿はいやおうなしに変わるだろうという気がするのです。

下手をすると日本全体が目先の人参に騙されて下請け的存在になりかねないリスクがあります。政治力というのは先の先を読み込んでこそであります。

とすれば菅総理は何か今回の署名に焦りを見せた気がするのですが、総理が安倍首相時代のお片付け仕事的な個別案件主義を引き続きとり続けているというふうにも見て取れなくはありません。

メディアのトーンも盛り上がってこないのは日本にとって両手放しのおいしい話ではなかったということを如実に物語っているのではないでしょうか?自由貿易とは攻める側にとっては都合がよいのですが、守る側にとっては厳しい施策です。

TPP11、あるいはアメリカや英国との貿易協定は日本が売り込みやすい相手です。一方、RCEPは日本が売り込まれやすい相手が主体であり、逆のベクトルだという点は肝に銘じるべきでしょう。

10年後の日本を描きながらこの自由経済圏の中でどう生き残るのか、日本の経済界に大きな方向転換が求められるのかもしれません。私のズバリ予想は日本企業による海外企業の買収が大車輪で進むとみています。(つまりアメリカの歩んできた道と同じということです。)

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月17日の記事より転載させていただきました。