私がベーシックインカムに反対なわけ

岡本 裕明

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一部でベーシックインカムの推進を取り入れようとする動きがあります。これは欧州で高度な社会保障制度の流れがより発達した進行形ではないかと考えています。北欧のような社会保障を日本でも取り入れようという考えがあるのは知っています。

では皆さんはスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドのように消費税が24〜25%もかかることを高度生活保障の代償として払うことを良しとしますか?

社会のシステムとは全体を見たうえで考えなくてはいけないわけで日本のように10%の消費税すら揉めたことを考えればそもそもベーシックインカムを取り入れる与件がそろわず無謀な理論展開、ないものねだりに聞こえます。

そもそもベーシックインカムは年金制度を無くしてその代わり全国民に最低限の生活できるであろうお金を毎月政府が振り込んでくれるという発想です。金持ちも貧困者も全員差別をつけないのが前提です。そもそもこの段階で同意できるでしょうか?

今回、コロナで政府から各種支援金が出ました。海外でも同様です。ところが不届き者が不正に取得しているだけではなく、金持ちなのに「なぜ、あなたが?」という人も支援金を貰っているのです。私も知るあるカナダ人は貯金が10億円以上あり、所有不動産が3つあり、毎日100㌦もするワインを飲むだけの暇な生活をしている人が給付金を貰っていました。

私にすれば「なんで?」と開いた口が塞がりません。このようなケースは当地の新聞にも取り上げられており、多分、来年あたり、カナダ政府が本腰を入れて監査、調査をするのではないかと思います。日本でも同様の調査をすべきです。今回の支援金はベーシックインカムと同じような発想だったと思っています。極めてよい実証実験だったと思っています。

生活保障を政府が延々と続けられるか、と言えばそんな財源が何処にあるのでしょうか?日本が消費税25%を受け入れますか?それだってベーシックインカムの与件は満たしていないはずでせいぜい、各種公共サービスが無料になる程度です。感覚論ですが主たる財源を消費税と考えればベーシックインカムを導入するためには消費税を50%ぐらい取らないとやりくりできないのではないでしょうか?そうなれば当然ながら消費は萎み、経済は止まります。

経済活動とは働き、生産し、それを消費するというサイクルが回り続けることで豊かな社会が実現します。なぜ、このサイクルを回すかといえば回すスピードが速くなればなるほど皆が幸せになることを体得しているからです。

例えば1人のケースで考えると働くという生産活動の結果、給与をもらい、それで日常生活をします。もしも一生懸命働けば残業手当があったり、給与やボーナスが増えます。これで今まで買えなかった高額消費財や不動産を購入することもできます。私はこれを「経済活動サイクルの回転率」という捉え方をしています。

企業や国家の成長とはこの1人のモデルケースを企業の全従業員や国民ベースまで広げた際の発想です。だから常日頃、経営者読本で従業員との接し方や効率化、顧客目線の製品開発などに人気あるのはこの全体のサイクルの一部分をいかにスムーズにするかという視点なのです。

もしもベーシックインカムを導入した場合、このサイクルの回転率はどんどん下がる可能性があります。なぜなら自分で回さなくても果実を取得することができるからです。つまり、ベーシックインカムを導入した瞬間、経済の基本構造は必ず壊れることになるはずです。

カナダは健康保険料が無料で病院も無料、出産も手術もまったくコストがかかりません。あるカナダ人が「だからそんなに無理して働かず、50代で早期リタイアだよ」と言っていたことに衝撃すら感じたのは政府による無料提供が「頑張る」という気持ちを萎えさせているのだということです。

(ただし、逆説的ですが、この無料のひどいレベルの医療サービスが故に病気になったら死ぬぞ、という気持ちから健康に対する意識が高まり、カナダが長寿国のひとつであるわけですが。)

日本は神道の国です。神々が皆働いていたのです。それなのにベーシックインカムを取り入れるという発想自体が日本的ではありません。汗をかく、その対価を貰うという経済のサイクルを回したからこそ、世界3位の経済レベルをいまだに維持していると考えるべきだと私は考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月28日の記事より転載させていただきました。