日本の銀行が経営不振になった2000代年初頭、世間は銀行員の給与水準が高すぎると大バッシングをしたのを覚えていらっしゃいますか?経営不振なのに銀行員が年収1000万円以上取るなんておかしいじゃないか、とか人のお金を右から左に流すだけでそんなに給与を取ってい良いのか、などなど不満がさく裂していました。
銀行員の給与が高かったのはお金を扱う業務だったことが理由の一つで、もしも薄給でカツカツの生活だったら目の前にある札束に目がくらんで身内の不祥事が絶えなかっただろう、だから給与を増やすのだ、という考えでした。
一方、給与水準が就職の重要な決め手である大学生にとって仕事の中身ではなく、高い給与という人参に釣られて銀行に入ります。が、スパルタ的な厳しいノルマを課し、数年間で新入社員の何割かを振り落とし、選りすぐりの部隊を作るのが人事政策でした。
ここにきてようやく、企業が即戦力のある中途採用者を広く募るようになってきて大企業が高給を餌に新卒を大量に囲い込む人事政策を転換し始めたのはよい傾向であります。
私は海外に30年近くも出ているわけで当地の給与体系はそれなりに見てきました。その明白な違いはジョブ型採用でスタッフと幹部候補でスタートポイントが違う点でしょうか?
日本は妙な平等主義があり、新入社員は全員同じ給与からスタートし、総合職であれば査定の差こそあれ、2〜30年経ってもせいぜい年収数百万円差程度で北米と比べれば大した差はつきません。
こちらの若手エリートにはなかなかやるな、と思わせる人たちは結構いるものです。その違いの一つは積み上げてきたキャリアでしょうか?大学や院卒という表層的な部分だけではなく、学生時代に自分にどれだけのチャレンジをしてきたか、という社会人経験が採用のポイントになります。
ボランティアでもいいし、サマージョブでもいいのですが、バイトでファーストフード店に勤めていたというのではなく、数カ月の休みを自己研磨のためにどう活用してきたかのアピールが素晴らしい人が散見できます。技術系ならどんなものに没頭してどんな成果を上げたかはっきりしたプレゼンテーションができたりするのです。
日本人の海外留学生は概ね2017年で10万人強とされます。また高校から海外留学する人も多く4ー5万人いるとされます。カナダは高校、大学共、人気国ベスト3に入ります。ここも学費や生活費が高いですが、アメリカがあまりにも高すぎてカナダに来る学生も多いようです。それらの学生が卒業が近づくとどうするか悩むケースは多いのですが、私は口を酸っぱくして「カナダに残りなさい」と言っています。理由は日本に戻ってもせっかくの能力を生かすジョブも評価される手段も限られているからです。
カナダの大学を出れば仕事ができるビザが3年ぐらいでるため、就職後に企業からワークビザを出してもらい、次に移民権の申請をしてその国に残るのが王道です。カナダの場合、移民推進策を来年はさらに進め、21年度は40万人受け入れる見込みです。人口の1%以上です。優秀な人材をかき集め、世界の頭脳化を着実に推し進めているのです。
日経に「研究者の中国流出続く 破格の給与魅力、待遇改善急務」という記事があります(※リンク先 日経電子版会員)。かつては日本のBrain Drain(頭脳流出)と言われ、外国に行く研究者は非国民だといわんばかりの雰囲気もありましたが、今は「日本に残っても…」となりつつあるかもしれません。
記事には「18年の科学技術予算は中国が28兆円に対し、日本は3兆8千億円と7分の1。また日本の大学教員に占める40歳未満の比率は16年は23.4%と過去最低となり、若手が職を得るのは難しい」とあります。
その為に中国に出る研究者が多いというわけです。記事は続きます。「外務省によると、中国に在留する研究者らは17年10月時点で約8千人。1カ月以内の短期も文部科学省によると、18年度は1万8460人と14年度比約25%増で4年連続の増加だ」とあります。こんなに多くの日本人研究者が中国だけをとっても流出しているのです。
研究者も生き残り競争が激しく、待遇のみならず、やりたい研究が続けられる海外にその活路を見出すしかない、というが本音なのでしょう。別に好きで海外に行くわけではなく、日本に自分の希望に沿った研究機関や大学がない、あるいは受け入れてくれないということなのです。
研究者や海外留学生のように高い能力を持った人が日本に戻らず(あるいは戻れず)、他の国で活躍するのが当たり前になったらどうなるのでしょうか?日本の沈没は避けられなくなります。
私は大学生の時から日本の国際化をずっと唱えてきました。ですが、40年近くたった今でもあまり国際化は進んでいません。むしろ、逆の方向に進んだ感もあります。日本で長く続くデフレとデフレマインドはその要因の一つでしょう。バブル崩壊で膨らみ切った企業の負債を減らすため、給与水準を下げ、かつ、レッドオーシャンの中、仁義なき価格戦争を繰り返してきました。不毛の戦いでありました。
その間、海外の物価は上がり続け、今では日本人が海外旅行に行っても「物価が高すぎて…」という状態になっています。
日本の平等主義は特筆すべき特徴ですが、成果に見合った報酬とジョブ体系は世界基準で考えるべきです。日本がいつまでもガラパゴスというわけにはいかないことを肝に銘じないと日本の迷走は続くかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年12月1日の記事より転載させていただきました。