自民党の高市政調会長が「預金課税を検討している」といいました。これは昔から知られていますが、危険なのでどこの国もやったことのない政策です。2020年12月1日の記事の再掲。
銀行預金には金利がつくものですが、よい子のみなさんは金利というものを知らないんじゃないでしょうか。ここ20年ぐらい日本の金利はほぼゼロで、今も普通預金の金利は0.001%。100万円を1年預けても、10円しか金利がつきません。
金利がマイナスになるってどういうこと?
この原因は、日本銀行の政策金利がマイナスになっているからです。政策金利というのは日銀が決める短期金利で、具体的には銀行などが日銀に預ける日銀当座預金の金利ですが、この一部がマイナス0.1%になっているのです。
これは銀行が日銀に1億円預けると、10万円の手数料をとられるということで、みなさんがATM(現金自動預け払い機)で手数料をはらうのと同じです。銀行はみなさんから預かった預金を日銀に預けるので、これは預金課税と同じです。
だから銀行は預金金利も本当はマイナスにしたいのですが、そんなことをしたら預金が引き出されるので、預金金利はゼロにしているのです。
おかげで銀行は、預金者からゼロ金利で預かった預金をマイナス金利で日銀に預ける逆ざやになって困っています。特に地方銀行の経営が苦しくなって、最近は合併が相次いでいます。最近は日銀も一部の地銀にプラスの金利を払うようになりました。
今年度はコロナ対策で国債が100兆円以上も発行されるので、買い手がなくなって金利が上がるのではないかといわれましたが、10年物国債でも金利は0.03%。なぜこんな状態が20年も続いているのでしょうか?
預金金利がマイナスになったら「取り付け」が起こる
その原因は簡単です。お金があまっているからです。金利は「お金の値段」ですから、バナナがあまったらバナナの値段がゼロになるように、お金があまったら金利はゼロになります。普通の人にとってはお金はいくらあっても足りないのですが、銀行は企業に貸し出す以上のお金を預かっても使い道がないので、ゼロ金利の国債を買っています。
こんな状態で日銀がお金を銀行に供給しても、あまったバナナを売り出すようなもので、値段はつきません。お金がますますジャブジャブになって金利が下がり、ゼロからマイナスになってしまったわけです。
その直接の原因は日銀が国債を「爆買い」しているからですが、日本の自然利子率(インフレにもデフレにもならない実質金利)はマイナス3%ぐらいと推定されているので、日銀が買わなくてもマイナスになるでしょう。
これは困ったことだと思う人が多いのですが、すなおに考えると、政策金利がマイナス 0.1%でもお金があまってるんだから、金利をもっと下げたらどうでしょうか?
これは素人考えではありません。ハーバード大学のロゴフは、政策金利をマイナス3%にしてはどうかと提案しています。そうすると日銀当座預金には3%の手数料がかかるので、銀行はお金を日銀に預けないで、ゼロ金利でもいいから企業に貸し出すでしょう。
でもここまでマイナス金利が大きくなると、銀行の逆ざやが大きくなるので、預金金利もマイナスになります。そうすると預金者は銀行から預金を引き出してタンス預金にするので、取り付け騒ぎが起こって日本経済は大混乱になるでしょう。このため深いマイナス金利にはできないのです。
「デジタル日銀券」で金利はコントロールできる
それを防ぐ方法があります。お札を廃止して、日銀券を電子マネーにするのです。デジタル日銀券はネットワークにつながっているので、マイナス金利をつけることもできます。みなさんが買い物をするときポイントをつけてもかまいません。銀行から引き出しても金利がマイナスになるなら、取り付けは起こらないでしょう。
マイナス金利は異常な現象ではありません。金利はお金の値段だから、お金があまっているときには下がるのが当たり前です。それがゼロ以下にできないのは銀行を守るためのルールですが、政府や日銀が銀行を通さないで電子マネーを発行すればいいのです。
現金に課税することは、100年前にゲゼルという人が提案し、ケインズやフィッシャーなどの有名な経済学者が賛成しました。フリードマンも銀行を通さないでヘリコプターからお金をばらまくのが理想的な金融政策だといいました。
これはみんな冗談だと思っていますが、冗談ではないのです。現金は資産としては時代おくれで、脱税や犯罪にも使われます。お金があまって企業が自由に資金調達できる時代に、現金だけ銀行が仲介を独占するのも不合理です。
日本は異常に現金の多い国です。国民の資産の半分以上が預金なので、銀行は使い道がなくなって困っています。現金に手数料をつけて徐々になくし、電子マネーに置き換えることは合理的な政策なのです。その第一歩として、政府がポイントを使って電子マネーを発行してはどうでしょうか。