「中国に妥協すること勿れ」 ―軍事の均衡保つための軍備が必要(屋山 太郎)

会長・政治評論家 屋山太郎

2001年に中国を世界貿易機関(WTO)に迎え入れてから、貿易上の不都合が急浮上してきた。その原因をトランプ大統領は数々暴き出した。その一方でトランプ氏は、世界の経済基盤に打撃を与えた。そのどれもこれもが的確なのだが、全体の外交方針の説明がないから、次の手が読めない。あるいは、現状をどう分析しているのか明確でなかった。

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浮上している最大の問題は、米中衝突である。中国の通信機器最大手ファーウェイが世界中に浸透したのは、実は政府補助金を補給されていたからだ。報道にあるように、製品価格の3割分もの補助金を受ければ、世界を制覇できるのは当然だ。トランプ氏は国家安全保障の名目でファーウェイを追放した。これに対し、バイデン次期大統領は改めて貿易ルールを厳しく作り直すことで、世界の市場の修復を図れると考えているようだ。しかし「規則を破った時どういう制裁を受けるか」を決めておく厳しい制度改革でなければ、他のファーウェイ問題が起こることは必至だ。

米国も他の国々も、規則や礼儀を教え込めば中国はまともな国家になると考えているようだが、中国を表現する思想は「中華思想」である。自分たちの存在が正しくて、他の国々は野蛮。日本は「東夷」、つまり日本は東側の蛮族なのである。それを知ったからこそ、聖徳太子が中国に親書を遣わして「中国と日本は対等ですよ」と告げたのである。それが607年のことだ。北の民族を北狄と呼ぶ。ウイグル、モンゴルなど北方民族のことで目下理不尽に征服されている。西戎はヨーロッパ、南蛮は東南アジア諸国である。一帯一路などというものは東西南北を征服する中国の基地に過ぎない。この征服欲の強い国と付き合うのだから、攻められた時、それを返り討ちにする軍備を持つ必要がある。軍事の均衡が中国を静かにさせる唯一の方法だ。

世界では中国を教育すれば中華思想を浄化できると固執する人々がいる。日本人は2千年かかって規則を守る礼儀正しい民族になった。しかし、中国は4千年かかって、守っているのは「宗族(そうぞく)」である。宗族というのは直系の男系に連なる集団で、宗族外では詐欺でも殺人でも許される。強烈な家族主義とでも言おうか。その中には「忠」の意識は勿論、「公」の観念も全くない。従って、他人の物を盗むことに抵抗感はない。

各国が中国脅威論を持つことによって、世界の外交方針が変わってきた。それ以前は、日本のアジア外交と言えば、日、中、韓という視野しかなかった。この観念に真っ先に疑問を呈したのは安倍晋三前首相である。第一次安倍内閣の最初の所信表明演説で「外交は、地球的規模で見直すべきではないか」と、問題提起をしている。

今、外交常識のように浮かび上がってきた考え方、日、米、豪、印4ヵ国の「クワッド」という中国包囲網である。4ヵ国は勿論、英国も加わる意志をはっきりと示している。

(令和2年12月2日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。