ESGへの取り組みは「加点重視」なのか「減点重視」なのか

12月1日の日経朝刊17面に「ESG不十分なら反対票 英運用会社、開示巡り基準(株主総会)」との見出しで、英国最大級の運用会社LGIMが、自社ESG評価基準に満たない日本企業の株主総会にて反対票を投じることを報じています。他の運用会社もそうですが、環境面における取組みに関する情報開示について、日本企業への要求レベルはとくに厳しいように感じます。

(Thithawat_s / iStock )

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ところで上記記事などを読みますと、機関投資家が企業に要求するESG評価は、企業の情報開示を前提とした「加点主義」ではなく「減点主義」のように見えます。先日のドイツ取引所によるISS買収事例などをみても、ESGへの取組みに関する情報をデータ化して徹底した分析のもとで同業他社と比較をすることに大きな価値がある。したがって、情報を出さない企業はペナルティを課す(反対票を投じる、社名を公表する、というのもこの流れかと)ということにつながるように思えます。つまり運用会社はESG経営に関するデータがほしい、というところかと。

このように考えますと、日本企業としても「減点主義」に乗り遅れないためのESGへの取組みについては必須であり、また「やらざるをえない」といった風潮から「虚偽記載」の事例も増えてくるように思います。ただしデータ収集と分析に重点が置かれる以上、個々の企業の取組みが真に「子や孫の代まで企業価値が向上すること」に寄与するものかどうかはわかりません。たしかに「倒産リスク」は把握できるかもしれませんが「ダイバーシティ」や「取締役会の実効性」では人的資源や組織風土、他社との協働(ネットワーク)までは把握できないのではないでしょうか。

消費者や株主から「次世代まで残ってほしい」と熱望される企業になるためには、私は「加点主義のESG経営」を目指す必要があると考えています。日経ビジネスの先週号(11月23日号)では「ESGが経営の真ん中に」とのタイトルで花王と味の素の社長さんの対談レポートが掲載されていましたが、「S」(公衆衛生)に熱心に取り組むことで、逆に「E」(ゴミの増加、脱炭素に反する商品製造)に反する経営をしてしまう可能性について議論されていました。これは「加点主義」を目指すうえでとても重要な視点です。

いま大阪湾では、川の水がきれいになりすぎてプランクトンが発生しなくなったため、漁獲量が減っているそうです。兵庫県では排水基準を緩和して、できるだけ漁業を保護する方向に転換しました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。つまり企業の技術を発揮して環境問題に取り組めば取り組むほどエコシステム(生態系)を毀損する可能性も生じるわけでして(※1)、このあたりをどう個々の企業が克服していくか(それとも他社と協働するか)・・・というところが企業に説明が求められるところであり、「加点主義」に求められるESG経営の課題だと思います。

※1・・・たとえば気候変動への企業活動による影響を考えるならば、「脱炭素化」のように変動を食い止める「緩和策」を選択する企業と、変動することを受け入れて、その変動に人間が耐えられるための「適応策」(エコシステムの保全等はこちら)を選択する企業があるはずです(「異常気象と地球温暖化-未来に何が待っているか」鬼頭昭雄著 2015年岩波新書169頁)。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。