最初の嘘が次の嘘を呼ぶ
「桜を見る会」の前夜祭の費用負担の問題で、東京地検特捜部が捜査に乗り出し、安倍前首相から任意聴取をする流れです。報道内容が事実とすれば、安倍氏は虚偽の国会答弁を何度も繰り返していたとなります。
「公職選挙法の寄付行為(パーティー費用の補填)の禁止に違反」、「収支報告書の不記載は政治資金法違反」「国会における安倍氏の虚偽答弁(政治倫理問題)」などが追及されています。
「公設秘書を立件、不記載4000万円、安倍氏側の補填900万円」という報道もある一方、「安倍氏への任意聴取は形だけ、起訴される可能性はない」との専門家のコメントも流れています。
安倍氏の「検察の捜査に全面的に協力する」とは、他人事のような無責任な発言です。自ら調べれば分かったことです。
それを厳しく批判する意見の一方で、「元首相を刑事訴追するほどの事件ではない」の声も聞かれます。もともと政治資金規正法、公職選挙法などはザル法にしてあり、逃げ道が多いのです。
「安倍氏は秘書から虚偽の説明を受け、補填は知らなかったとしている。だから国会での虚偽答弁になったのは秘書の責任」とか。安倍氏への防波堤としての秘書に責任を負わせ、逃げきるシナリオでしょう。
「安倍氏の政治的影響力は低下する」という代償を払えば、幕引きできるですか。とにかく苦し紛れに嘘を一度つくと、追及されるたびに嘘を繰り返す羽目に陥る。何度も繰り返されてきた展開です。
時を同じくして、安倍氏の盟友だったトランプ米大統領がバイデン氏に大統領選で敗北しました。選挙期間中のトランプ氏の罵詈雑言、選挙開票に対する訴訟の乱発など史上最低の大統領選でした。モリカケ桜問題を追及された安倍氏とは、虚偽が桁外れです。
日本でも著名なジョセフ・ナイ教授が批判しています。「ほとんどの大統領は嘘をついてきた」と。政治権力は嘘をつかずに維持できないという意味でしょう。万国共通です。
ナイ教授は「しかし、トランプ氏の嘘の多さは、群を抜いている」と、痛烈です。権力者の嘘には加速がついているようにみえます。腹心だったバー司法長官も「大統領選の結果を覆すような大規模な不正の証拠は見つかっていない」とまで語りました。
闇が深いのは、トランプ氏が「米民主主義の破壊者」と酷評されつつも、獲得票は7100万票(バイデン氏は7500万票)と、前回より800万票も上積みしたことです。半数近い投票者が大統領の虚偽に無関心です。
経済が長期的な低迷期に入り、グローバリゼーションの流れからも取り残される人たち増える。有権者は利己的になり、政治的倫理は後回しでいいと、なっているのでしょうか。
安倍政権下でも、モリカケ問題で支持率を落としながらも、甘すぎる金融財政政策で選挙に大勝することで、危機を回避してきました。日本の有権者も政治倫理は後回しにする時代なのでしょうか。
民主主義国ではない独裁政権の中国、ロシアとは、政治倫理の国際比較はできないでしょう。それでも「尖閣諸島は固有の領土との主張する。香港の自由ははく奪する」の中国の虚偽は目にあまる。
「北方領土は第二次世界大戦の勝利で確定した領土」などというロシアの虚偽は、日本との領土交渉の障がいになっています。習近平もプーチン大統領もと列挙すると、多くの国で権力者の虚偽が蔓延している。
国益を最優先する外交の場では、虚偽を主張する政治権力者は珍しくありません。問題は外交と内政が連動することです。トランプ氏の対中強硬策に国内支持が強まると、虚言癖も許されてしまう。
利己的になってきた有権者が政治的虚偽を増長させるのでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。