北米で大麻が合法化される動きが鮮明になりそうです。ご承知の通り、カナダは国単位で2018年10月に合法化された世界2番目の国であります。(1番はウルグアイで2013年に合法化。)当然ながら国内では賛成反対の議論はありましたがトルドー首相が合法化に前向きだったこと、たばことの健康問題の対比、そして最大の理由は大麻にかかわるアングラマネーや犯罪を無くすことだったわけで、わりとすんなりと決まった経緯があります。
またアメリカでは12月4日に連邦下院でMORE ACTと称する大麻合法化の法案が可決しました。ただ上院での通過は見通されておらず、即座に連邦ベースで解禁とはならないはずですが、アメリカ国内で確実に大麻合法化の準備と市民の心理的受け入れが浸透していくものと思われます。
では一足先に合法化されたカナダのCannabis(大麻)ビジネスが順調だったかと言えば難産だといわざるを得ません。まず、品質の高い大麻の安定した生産量を確保するのが非常に大変でした。大麻ビジネスに目を付け、多くの会社が参入しましたが買収などを経て一定数の数に収まりつつあります。世界最大のCannabis事業者であるCanopy Growth社の時価総額は1兆1千億円規模ありますが、いまだに黒字になったことがありません。ただ、第3四半期の決算では赤字幅が順調に縮小しているので来期には黒字になり、経営が軌道に乗りそうな気配です。
またカナダは大麻を扱う店舗の規制も厳しく、ビジネス許可を申請してもなかなかそれが出ず、繁華街にはCannabis Storeが「近日オープン」と書かれたまま、半年以上たっているところはざらにあります。カナダ当局は大麻の取り扱いについて生産側も販売側にも厳しい管理、報告を要求し、最新最先端の手法でその動きをチェックするため、ルールに違反することが難しくなっているのではないかと察します。
北米ではカジノがマネーロンダリングの対象として何度も問題視されてきました。そのたびにカジノ施設の管理はより一層厳格になり、悪さをするのが極めて難しくなってきたという印象はあります。つまり大麻もカジノと同様、アングラマネーや犯罪など、悪の温床とされてきましたがそのような組織的犯罪と戦い、悪の手を断ち切りつつある点でその管理社会は別次元の発展をするといえるのでしょう。
11月4日のアメリカ大統領選挙を受けてバイデン氏がし好用大麻について連邦ベースで解禁するのではないかとみられており、それ以降、多くの大麻生産会社の株価は大きく上昇してきました。カナダに比べて市場規模が10倍あるわけで事業者にとっては極めて魅力的に映るわけです。カナダの生産会社はその点では世界水準のデファクトスタンダードを確保しつつあるともいえそうです。
一方、アメリカの反対側、メキシコも11月19日に上院議会で賛成82、反対18、棄権7票で可決しました。この後、下院での決議、および大統領の署名を経るプロセスとなります。既にメキシコ最高裁が合法化の手続きを12月15日までに行うことを判決していることからあと2週間程度で手続きが大きく進むものと思われます。
メキシコには大麻を含めたドラッグの生産地、南米各国からアメリカへの通過地として巨大なアングラマーケットが存在しています。とくにそれが顕在化したのはコロンビアの麻薬組織の解体からメキシコにその市場の基地を移したことで2006年から「メキシコ麻薬戦争」が勃発、紆余曲折しながらもアングラ組織のカルテル化が進み、巨大な資金と暴力、犯罪の温床となっていました。
メキシコが今一つパッとしないその理由の一つはこの犯罪組織の撲滅化が全く進まなかったことが大きく、今回の大麻法制化により撲滅には至らなくても勢力の縮小化の効果は期待できるのかもしれません。
こう見ると北米3か国は2021年に大きく大麻の取り扱いが変わる可能性があり、ニュービジネスが展開されるとみています。既にドリンク型の大麻も売り出されていますが、様々な形を変えたし好品が市場を席巻するのかもしれません。
国連は12月2日の国連麻薬委員会で大麻を最も危険なドラッグであるスケジュール4から削除し、各国で合法な医療用での使用が承認されました。これはし好用の使用とはもちろん違いますが、大麻に関する認識が世界レベルで変わってきていることを示しています。
では合法化したからそれまで触らなかった人が常習になるのか、といえばそんなことはなく、やらない人はまったくやらないわけで私の周りでもカナダ人が突然大麻狂いになった気配はほとんどありません。なぜわかるかと言えば大麻を吸えば独特の匂いがあるため、割と遠くにいてもすぐわかるのです。私の住むコンドミニアムでも夏の間、窓を開けているときなど、ごくたまに匂いが入ってきたりするので住民の誰かが吸っているのかな、ぐらいには思いますが、それ以上の何物でもありません。
自動車運転において大麻吸引は飲酒と同様の規制を受けますが、BC州のデータによると自動車事故のうち飲酒原因が8%、大麻が4%、その他ドラッグが5%程度というデータもあります。4%が高いか低いかの判断は難しいところですが、この辺りも今後、より社会教育が徹底されていくのだろうと思います。
日本を含むアジアでは私の目の黒いうちは大麻が合法化されることはないでしょう。ただ、大麻賛成反対という観点ではなく、北米が大麻をなぜ合法化させるのか、それをどう管理し、違法者に厳罰を加えていくのか、という視点で見ていくと勉強になることは多いものです。
私のうがった見方ですが、アメリカ財務当局が暗号通貨について匿名性を排除する方向を示しています。これは大麻の合法化を見据えて、ドラックディーラーの資金のやり取りの手段の一つである暗号通貨を徹底的に管理するという見方もできます。とすれば様々な世界が一気に動き、日本が追い付けないようなスピードで世の中が進化していく結果になるともいえるのでしょう。
この辺りのダイナミックさは北米ならではともいえるのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年12月6日の記事より転載させていただきました。