誠実な企業における「パワハラ事件」はなくならない-予防よりも解決に注視せよ

不謹慎なエントリーにならないように、まじめに取り上げたいと思います。ご承知の方も多いかとは存じますが、私が社外役員を務めております2社で(ほぼ同時に)大手メディアで取り上げられるパワハラ事件が発覚しました。以下は「言い訳」に聞こえるかもしれませんが、「パワハラ」をコンプライアンスの視点から考えているところの意見です。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

役員(社外取締役、社外監査役)としての守秘義務がありますので、個別の案件に関するコメントは控えます。ただ、私が本業としております「内部通報に基づく通報案件の調査支援業務」を通じて、「国内外の同業他社と競争している以上、パワハラは一種の病理現象であり、予防は困難。むしろ早期発見のうえでいかに対処するか、その職場環境への配慮が不可欠」と思います。

よく企業不祥事発生の要因として「社内の常識と社外の常識との乖離」と言われますが、社内にも「世代間における常識の乖離」があることに留意すべきです。パワハラ加害者と通報者(被害者の場合もあれば、同じ職場の第三者の場合もある)双方の話をとことんまで聴いておりますと、20代・30代の常識と40代以上の常識は明らかに違う。

「自分がミスをしているのになぜ謝らないのか」「自分のミスであることをわからせるために、彼のためを思って叱責しているのに」と課長クラスの方々は悩みます。しかし20代社員の方々は「自分のミス」であることはわかっている。今後気を付ける気持ちもある。ただ、それを「謝る」行動につなげる習慣がない。「謝らない、ということは自分が悪いとは思っていない」という40代・50代の常識と、「自分に悪いことを認めるのに謝ることが必要とは思わない」という若い世代の常識とは相当に隔絶したものがあります(もちろん、若い方々にも「悪いときはとりあえず上手に謝る」という世渡りを、きちんと認識している人も結構いらっしゃいますが)。

最近「多様性」という言葉を企業社会でも耳にしますが、「世代間ギャップ」を理解できない企業が「多様性」を受け入れることは(自分への反省もこめて)なかなかむずかしいのではないか、と考えてしまいますね。私も還暦なので、どちらかというと40代以上の常識に親和性を持ちますが、通報の約8割に及ぶパワハラ案件に関わっておりますと、どんなに元気で誠実な組織でも、日本的な雇用慣行を維持するかぎりにおいてはパワハラはかならず起きる。頭ではわかっていても、自分の「常識」は変えられない。したがって、なくすよりも職場において解決することを通じて「多様性」を受容できる組織環境を形成する必要がありそうです。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。