甘かったトランプの対中強硬路線、バイデン政権に是正を望む

しかし、未だにバイデン氏が勝ち、トランプ氏が負けたという事実を認めていない人々が存在する。ひとりは、トランプ大統領その人である。選挙人の投票が終わってもなお、大規模な不正があったとの自説をツイッターで主張している。

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また、彼を熱狂的に支持しているアメリカ国内の支持者も大統領の主張に同調しており、その主張の正当性を示すためにワシントンDCにて大規模な抗議を行った。統計によると7割近くの共和党員が実際に不正があったと信じている。

その一方で太平洋を面した日本でも、トランプ氏の根拠のない主張を信じて疑わない人々がいる。いわゆる、日本において保守派と目されるオピニオンリーダーたちは主にツイッターを通じてトランプ氏の擁護を続けており、一般人の間でも米大統領選の不正を訴えるためにデモを行うという動きが出てきている。

なぜ、他国のリーダー、しかも物議を醸すような人物の主張に傾倒してしまう日本人がいるのか?

トランプ政権で変わった対中政策のトーン

da-kuk/iStock

ひとつの理由として挙げられるのが、トランプ政権によって変化した対中政策のトーンである。

2012年以降、日本への領海侵犯の頻度を上げ、軍事力を着実に伸ばしている中国は、保守派にとっては脅威と認識されてきた。しかし、その懸念とは裏腹に、オバマ氏が中国と協調をしていく姿勢を見せ、尖閣諸島問題に関しては中国に配慮する発言をし、保守派を苛立たせた。そして、アメリカが日本を守ってくれないという疑念が保守派の間で生じた。

トランプ氏はある意味では保守派の間でのアメリカへの疑念をなくすことに成功した。アメリカの対中政策のトーンを、配慮から対決に変えたからである。彼は30年前から強い言葉で中国との貿易赤字、中国の貿易慣行を批判しており、最初の大統領選挙に出た時も、現職になってからも、同様の批判を繰り返している。

また、2018年から大規模な関税を中国から輸入される物品に掛けることで貿易戦争を仕掛け、言葉だけではなく行動で中国に対して挑戦した。

そのため、保守派にとっては中国に強気な姿勢を見せるトランプ氏の方が歓迎される存在であり、中国に対して弱腰だったと認識している民主党、バイデン氏が政権に戻ってくることを阻止したいという心理が働いている。これが、保守派が一方的なトランプ氏を擁護する理由だと筆者は考える。

当初は下心満載

確かにトランプ政権になってからアメリカの対中政策のトーンは厳しくなったかもしれない。しかし、トランプ氏は心の底から中国との対決は望んでいなかった。2017年4月に習近平国家主席を自らの別荘に呼んだという事実から明らかである。

トランプ氏が習氏を別荘に呼んだ理由は、貿易面でアメリカにとって有利なデイールを引き出すためであった。そして、そこで実際に中国側が譲歩してトランプ氏の顔を立てていたら、彼は迷いなく合意し、中国の台頭に怯える東アジアの同盟国を半ば見放す決断をしていたと筆者は考える。

また、そう信じる理由はいくつもある。彼はヨーロッパ諸国、日本、韓国などといった伝統的な同盟国との間に結ばれていた条約や枠組みの破棄をチラつかせ、国益を最大化させるための交渉の道具とした。その一方、旧来の敵国であっても、自分の顔を立てくれるためなら、北朝鮮などの独裁国に対して宥和的な姿勢を見せた。

結局は米中間の初期の交渉は決裂し、それに怒ったトランプ氏は対中政策のトーンを強いものとした。だが、彼の過去の言動が示唆する日和見主義的な彼の性格を考えると、交渉が早い段階で合意に達していればトランプ氏が主導する対中政策のトーンが今より弱いものになっていたと考えるのはおかしなことではない。

限界を見せた単独主義

また、筆者はトランプ政権の対中政策は、長期的に見れば、中国に圧力を加えるものとしては弱いと感じた。なぜなら、トランプ政権は同盟国を軽視し、同盟国もアメリカを軽視するようになったからである。

トランプが大統領になってから、彼の言動、衝動的な決断に基づいた政策のせいで、世界から見たアメリカのイメージは一気に悪くなった

オバマ政権時と比べ、西洋諸国の間においては概ねアメリカへの支持が半減しており、日本も例外ではない。イギリスに至ってはピューリサーチセンターが統計を取り始めてから、最も低い数字だそうだ。

そして、それを糸口と見た中国は、アメリカの同盟国の切り崩しに掛かっている。例えば、イタリアとは貿易面での連携を強め日本に対して秋波を送ることで、ゆるやかに形成されつつある対中包囲網の穴を作り出そうとしている。

短期的な視点で見たらトランプの対中政策はインパクトがあり、中国に痛手を加えたのかもしれない。しかし、トランプ氏が同盟国を軽視したことで、中国は軽視された同盟国との距離を縮め、アメリカへの依存を減らすことで、アメリカからの圧力を回避する手段を手に入れる余地を得た。

もし、トランプ政権がもう4年続いていれば、アメリカの同盟国という保険が中国にあるおかげで、いくらアメリカが圧力を加えても中国には効かない状態が成立していたのかもしれない。 

日本はアメリカが戻ってくることを願っている

バイデン氏は「アメリカは帰ってきた」と宣言した。そして、トランプ氏に足蹴にされてきた同盟国はその言葉が現実になることを望んでいる。

そして、日本は特にそう思っているはずである。日本は戦後アメリカの核の傘のもとで経済成長を果たし、安全が守られてきた。そして、中国の脅威が台頭してきた今、積極的に同盟国を守り、一貫性があるアメリカの存在は日本にとって切実である。

そのためには、日本政府はバイデン政権に対して良い意味でトランプ政権の対中政策の否定を求める必要がある。実質的な、同盟国を巻き込んだ粘り強い対中政策こそが日本がアメリカに求めなければいけないものである。

保守派が好む見かけだけの、力任せの対中政策では現状変更を望む中国の言動を抑制することはできない。

鎌田 慈央(かまた じお)国際教養大学 3年
徳島県出身。秋田県にある公立大学で、日米関係、安全保障を専門に学ぶ大学生。2020年5月までアメリカ、ヴァージニア州の大学に交換留学していたが、新型コロナウィルスの感染拡大により帰国。大学の学生寮が閉鎖され、現在は同級生たちとハウスシェアをしながらオンライン授業を受ける毎日。