死者の減っている日本で緊急事態宣言は必要ない

東京で「過去最多の感染者」が出たと盛り上がり、野党も緊急事態宣言を出せと要求し始めた。「今年のインフル患者は200人なのにコロナは18万人だから大変だ」という人がいるが、これは単純に比較できない。

もし自粛や感染症対策でインフルが減ったとすると、武漢の大流行が報じられた1月後半以降のはずだ。ところが昨年末まで平年を上回るペースで増えていたインフル患者が第1週に下方屈折し、1月後半には昨年の1/4に激減した。

インフルエンザ患者数(国立感染症研究所)

これはウイルス干渉だというのが専門家の見方だが、これについては諸説ある。いずれにせよインフルは特異データであり、コロナは比較対象がないので、平年値が安定している感染症の患者数を平年と比較してみよう。

感染症週報(国立感染症研究所)

感染性胃腸炎(ノロウイルスなどの食中毒)は、第4週までは平年と同じペースだったが、第5週から減り始め、第19週(5月中旬)に最低になった。その後も平年より大幅に少なく、冬になっても増えない。これは人々が手洗いをするようになった効果と考えられる。

感染症週報(国立感染症研究所)

マイコプラズマ肺炎も第3週から減り、5月に最低になった。これも平年より大幅に少なく、その後も増えていない。これはマスクの効果だろう。その他の感染症も同じような傾向で、2月ごろから減り始め、4月に底を打って、その後はあまり変わらない。

政府の目的は「コロナ感染ゼロ」ではない

ここから第一にいえることは、行動変容の効果は大きいということだ。コロナ以外の感染症も、2月から大きく減った。これは政府の規制より早く、マスコミやネットでコロナが話題になり、人々が感染を気にし始めたことが原因だろう。この点で(よくも悪くも)メディアの影響は大きい。

第二にいえることは、緊急事態宣言にはほとんど効果がなかったということだ。感染が急速に減ったのは3月で、4月8日に緊急事態宣言が出たあと5月に底を打ち、それが解除されたあとも増えていない。政府や自治体の出した休業要請には、大きな効果がみられない。

第三にいえることは、コロナの検査陽性者数だけが増えたということだ。これは他の感染症が減っている中で、コロナの脅威が大きいとも解釈できるが、他の感染症は病院の外来患者なのに対して、コロナは毎日5万件以上PCR検査をしている。その多くは無症状であり、単純に比較できない。

少なくとも統計的に比較できる感染症でみるかぎり、緊急事態宣言による行政の介入で大幅に感染が減った証拠はない。コロナの重症者と死者はやや増えているので注意は必要だが、感染爆発の起こる状況ではない。感染症全体としては、今年の超過死亡はマイナス2万人以上で、今年の死者が昨年より減ることは確実だ。

死者は少ないほどいいという意見もあるだろうが、今年の交通事故死者も、次の図のように自粛のおかげで昨年より2割ぐらい減った。これをゼロにするのは簡単である。自動車の運転を禁止すればいいのだ。感染症をゼロにしたいなら、外出も通勤も家族の接触も全面禁止すればいい。

警察庁調べ

政府の達成すべき目標は「コロナの感染ゼロ」ではなく、社会的コストの最適化である。超過死亡はその客観的な基準だが、日本の状況は超過死亡が27万人を超えたアメリカとはまったく違うのだ。

死者が平年より少ないのに、これほど経済的ダメージが大きいのは、政府の対応が過剰反応だということを意味している。コロナ被害のほとんどはマスコミの作り出した情報災害であり、行政の介入は実質的な感染防止の役に立たない。緊急事態宣言を発動する客観的基準として「超過死亡がプラスになったら行政が介入する」というのはどうだろうか。