なぜ大阪をほめないのか?社会政策に活かす新規陽性者数の観測を望む

篠田 英朗

「非常事態」を知らせる通天閣の赤点灯(HIROSHI_H/iStock)

「勝負の3週間」と設定された期間が終わった。先週末、私は、たまたま夜遅くの電車に乗った時の光景と、その数日前からの新規陽性者数の拡大傾向とを重ね合わせ、忘年会シーズンに新規陽性者数の減少を果たすのは難しいだろう、といったことを書いた。

勝負の3週間の後も抑制管理は続く

その後の1週間は、全般的に私の書いたとおりに展開した。新規陽性者数の再拡大は顕著な傾向となった。「勝負の3週間」が宣言された11月下旬は、新規陽性者数の拡大は鈍化傾向にあったのだが、その後はしばらく横ばいが続き、12月半ばになって、むしろ上昇に戻った。

新規陽性者数の拡大に、科学的な法則はない。むしろ人間の社会生活の動向によって、左右される。そのことを痛感する12月である。新規陽性者数の再拡大を強くけん引している東京のトレンドを見ると、週平均で1.2倍のスピードで進んでおり、しばらく新規陽性者数の拡大は続きそうである。

ただし、実はこの再拡大を引っ張っているのは、東京およびその近郊の神奈川などの首都圏が主である。広島などその他の一部でも再拡大の傾向が強い地域があるが、全国的には再拡大のペースは鈍り始めた。

全国的な傾向を、首都圏に抗して引き戻しているのは、大阪などの首都圏以外の地域だ。特に大阪は、7日移動平均で前の週の水準を下回るペースを続け、しかも今週になってから平均値を減少させるペースを維持している

大阪の7日移動平均の値は、3週間前以前の水準に引き戻されている。大阪は、これまで何度となくGoogle AI予測で、東京を上回る甚大な被害を出すと予測されてきた。そのGoogle AI予測を覆す堅調ぶりである。

「勝負の3週間」で全国的な結果が出せなかったことについてはきちんと総括し、次の一手を提示する責務が、政府にあると思う。

ただし十把一からげに悲観をするのではなく、堅調な数字を見せている地域については、そのことを肯定的に取り上げるべきだ。頑張っている人々は、その頑張りを認め、引き続き頑張ってほしいというメッセージを送るべきだ。そういうメリハリがなければ、人々はついてこない。

感染拡大については、SIRモデルからK値に至るまで、あたかもそこに科学的に識別可能な法則があることが自明の前提であるかのように扱う言説が、注目を集めてきた。

しかし本当に必要なのは、その時点その時点のトレンドを捉え、その背景にある人々の努力を認めてあげて、称賛したりしてあげることではないだろうか。科学的法則に従って新規陽性者が推移しているだけなら、誰も感染防止の努力などしない。

予測当てごっこから卒業し、社会政策に活かしていくという実践的な目的にそって、新規陽性者を観測する姿勢を確立したい。