今回は、イエスは人類救済のためではなく「女性神」を探すために降臨したのではないか、というテーマだ。キリスト教の伝統的な教えでは、神は独り子イエスを地上に降臨させ、人類を救おうとされたと考えてきた。
それに対し、イエスの降臨目的は、男性神が失った自身のベストハーフ(伴侶)をもう一度見出すために、人間の姿(イエス)となってこの地上に降臨したという主張がある。男性神が失った女性神を見つけることができれば、人類救済は自動的に達成できるので、イエス降臨の究極の目的は本来、「妻」を探すことであって、人類救済ではなかった、という主張だ。
以下、少し説明する。
男性神と女性神が存在するという考えは一神論の立場のキリスト教の基本的神観とは異なるが、神が男性神と女性神であるという主張は聖書に基づいている。女性神の存在は聖典の中には至るところで見いだせる。
ベルギーの考古学者、ネル・シルバーマン氏やテルアビブ大学のイスラエル・フィンケルシュタイン教授によると、シリアの砂漠で紀元前800年頃の石碑が発見されたが、そこには、「イスラエル民族の神ヤウェとその妻アシェラ」と記述されていたという。アシェラは多神教の信仰が広がっていたカナン(現イスラエルの辺り)の地に登場する女神の名前と同じだ。「エレミヤ書」では女神を「天の女王」と呼んでいる。
神は男性神と女性神だという話は旧約聖書の創世記を読めば明確に理解できる。聖書の記述者は、「神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された」(創世記第1章27節)と記述し、神にも男性と女性の2性が存在することを示しているからだ。キリスト教の「神」は基本的には男性格要素が強いが、聖霊が降臨して女性神的な役割を果たすことで、キリスト教神学の欠損部分を補填してきたわけだ(「男性と女性の2性を有する『神』とは」2019年1月2日参考)。
問題は、男性神と女性神が宇宙を創造した後(ビックバーン)、何等かの理由から対立し、女性神は地上に追放されたことだ。著名なユダヤ教文化史専門家、クラウス・ダビッドビィツ教授によれば、女性神は「生命の木」の下に男性神と共にいたが、堕落してからは追放された。女性神はその後、聖典には“淫乱の神”として登場する。旧約聖書の「ホセア書」には神が伴侶の女性神と離婚したことが示唆されているというのだ。
例えば、「ホセア書」第2章には「彼女は私の妻ではない。私は彼女の夫ではない。彼らの母は淫行をなし、彼らをはらんだ彼女は恥ずべきことを行った」と記述されている。ルター訳聖書では、神の妻を「売春婦」と訳していたほとだ。
創世記の「失楽園」の話を読めば、人類の最初の過ちは最初の女性エバから始まったことが分かる。「神学大全」の著者のトーマス・フォン・アクィナス(1225~1274年)は「女の創造は自然界の失策だ」と言い切っている。
ちなみに、「女性神」については昔からさまざまな伝説がある。古代中国神話では女媧(じょか)と呼ばれる「女神」が人類を創造したという話が伝わっている。「女神」がどうして人類を繁殖できたかについてはいろいろな説があるが、老子の「万物は陰を負い、陽を抱いている」という陽陰説を適用すれば、「女神」の女媧は単性生殖ではなく、自身の陽陰で万物を創造したことになる。
人間の姿として降臨した男性神(イエス)は別れた女性神との和合を模索するが、この世の神となって巨大な力を有していた女性神を説得できず、逆に十字架にかかり、その願いを果たすことが出来なくなった。「私はもう一度くる」というのは再び人間の姿で男性神が失った妻を探しに来るというメッセージだったというのだ。
だから、再臨主が降臨した場合、彼の最大の使命は女性神を探し出すことにある、という見方ができるわけだ。そして男性神と女性神が和合できれば、そこから新しい人類が繁殖できるから、人類の救済祝福は自動的に実現できる、となる。
以上、この話はイエスの誕生を祝うクリスマスの伝統的な考え方とは異なっているが、イエスが誕生された目的を考える上で、新しいインスピレーションを与えるのではないだろうか。
明確なことは、男女が和合しない限り、男性格と女性格から成る「神」は自身を表すことができないということだ。「男性が強い世界」でも「女性が強すぎる世界」でも「神」は安住できないわけだ。
蛇足だが、当方はこのコラム欄でイエスの33歳までの生涯の再考を試みた。「イエスの父親はザカリアだった」(2011年2月13日参考)、「イエスの十字架裁判のやり直し?」2013年8月4日参考)、「『償い方』の時代的変遷とその『恩恵』」2014年7月10日参考)、そして「『聖母マリア』神性化の隠された理由」2015年8月17日参考)。この4本のコラムを時間が許せば再読してほしい。イエスの降臨の意義を知るための細やかな試みだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。