昨日、医療関係9団体が一堂に会して「医療緊急事態宣言」を発した。単にコロナ感染症対策ではなく、国内の医療供給体制が逼迫している状況を憂慮した宣言である。メディアではコロナ感染症患者用のベッドが逼迫していることを伝えているが、年末年始を控え、心筋梗塞、脳梗塞を含め、緊急性の高い疾患の対応ができないリスクが目前に迫っている。
分科会で、他疾患も含めた医療供給体制にどの程度影響が出ているのかを検討しているのか、状況は把握できていない。しかし、例年でも年末年始休暇中には、病院の勤務者がかなり減り、コロナ感染症がなくても、ギリギリで回しているような状況である。そのような中で、ICUがコロナ感染症患者で占有されていると、緊急性疾患の対応が十分にできなくなる。これが日本医師会などが訴えている「救える命が救えなくなってしまう状況」を意味する。感染者を減らして、医療崩壊を防ぐということは、医療現場の経験がなくても、容易に想像がつくことである。
多くの人にとってわかりやすい危機的状況が予測されるにもかかわらず、国のトップが何も語りかけないのは、あまりにも無責任だ。助けることのできる命が助けられなくともいいと思っているのだろうか?東京では8日連続で各曜日の最多感染者数を更新している。年内に1000人を超える可能性が高くなっている。街中を見ていると、接触を回避するため、車の混雑はひどくなり、電車は少し混雑が緩和された感がある。みんな最大限の努力をしている。しかし、季節的な要因もあり、電車の中で咳をしている人の数が増えてきたように思う。そして、繁華街での人出は少し減った程度だ。
テレビでも政権への太鼓持ちのように、経済への影響を訴え、GoToキャンペーンがいかに重要かを滔々と話しているコメンテーターもいる。総理大臣はいろいろな人から意見を聞く必要があるので会食もいいのではと擁護する人もいる。本質的には、いろいろな人から意見を聞くのに、会食を伴う必要があるのかどうかが問われているのだ。何も国民に訴えかけず、自ら会食を繰り返していて、国民に危機意識が伝わるのかどうかが問われているのだ。
担当大臣や都道府県の知事は「会食制限」や「帰省をしないで」を訴えている。一方で、会食を続け、「誤解を与えたことを反省している」と弁明をしている。誤解などしていない。医療現場が窮状を訴え続けている中で、多くの国民ができる限りの努力をしている。そのような環境下で、何も語らず、国民にお願いしている会食制限を自ら無視しているトップにいら立ちを覚えているのだ。
NHKニュースで、コロナ感染症を受け入れている約1100病院の20%で看護師の離職が起きていると報道していた。負担が増えているにもかかわらず、ボーナスカットや減給が原因で心が折れているという。テレビで過酷な現場の状況を目にする度に、政治は何をしているのかと腹立たしい限りだ。経済を回すというが、医療供給体制が崩れそうで、人の健康も守れなくなっている。
国民の命を優先するならば、やるべきことがあると思う。それをしない国のトップの在り方が支持率に反映されている。こんな中で、桜批判を優先している野党にもがっかりだ。医療を、人の命をどう考えているのだ。本当ならば、野党支持率が上がっているはずだが、それはない。その理由も考えない野党がある限り、この国がどこに流れ着くのか不安が募る。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。