タイで感染爆発!多くはミャンマー人労働者 、ワクチン接種の優先権は? --- 藤澤 愼二

往来の消えたバンコクの大通り(2020年4月、nay/iStock)

今年3月の非常事態宣言と厳格なロックダウンでコロナの封じ込めに成功し、タイは世界でも数少ない、コロナをうまく制圧できた国として知られてきた。しかし、12月19日、バンコク近隣のサムットサーコーン県にあるエビ市場で、一挙に700人近くが感染するという感染爆発が起こったのである。そして、そのうちの9割が現地で働く外国人労働者で、主にミャンマー人であった。

これに対し、サムットサーコーン県知事は即座に14日間の県内ロックダウンと夜の外出禁止令を出し、また、バンコク都も新年のカウントダウンの中止や大規模集会の禁止を命じ、12月29日から1月4日までの間、都内の競馬場、マッサージ店、ナイトクラブ、カラオケ等の人が集まる娯楽施設の閉鎖を命じた。しかし、感染は現在もタイ国内各地で急速に広がりつつあり、まだまだ予断を許せない状況にある。そして、最悪の場合、タイ国内全土でロックダウンが始まる可能性も否定できない。

ところで、今、イギリスなどで大流行しているコロナ第3波は変異して感染力が倍増したウイルスが原因と指摘されているが、今回のタイでの感染爆発も、エビ市場で働く2,051人の内、実に914人が感染するという44%もの高い感染率なのである。現在指摘されているのは、インドで発生し、ミャンマーそしてタイに入ってきた変異した感染力が強いウイルスの可能性があるということだ。

ではなぜ、今まで安全なはずだったタイで突然感染爆発が起こったのか。今回はその点に焦点を当ててみたい。そもそも今回の感染爆発の発端は、このエビ市場で働くミャンマーからの不法労働者であった。

タイはなんだかんだいっても、アセアン10か国の中ではシンガポールやマレーシアに次ぐ先進国であり、一般のタイ人がやりたがらない、いわゆる3Kの仕事は周辺国であるミャンマー、ラオス、カンボジアからの出稼ぎ労働者が担っている。そして、海で隔離されている日本と違い、これら3か国とは国境が陸で接していることから、労働許可を持たない不法労働者が簡単に入って来られるのである。

9月初め、筆者は「2021年、タイ観光産業のメルトダウンが始まる!」という題で本サイトに投稿したコラムで、感染が急拡大するミャンマーからの密入国者を食い止めるるべく、プラユット首相が国境警備を厳重にするよう指示を出したと書いた。しかし、不法労働者だけでも既に50万人以上がタイに入ってきているといわれている中、今回、感染爆発が起こったサムットサーコーン県のエビ市場で働く外国人は大半がミャンマー人ということである。そのうち何割が不法労働者なのかはわからないが、ここでも相当数にのぼっているはずである。

 

現地オンライン紙、ポストトゥデイによれば、いくら不法労働者だからといって、タイ政府が彼らを捕らえて刑務所に入れても、今度はその刑務所関係者が感染し、やがてその家族や周りの人に感染が広がるので、結局制御できないということである。全くそうだと思うが、人を捕らえて拘束してもウイルスは鉄格子など関係なく浮遊するので始末が悪い。

さて、この記事が今問題にしているのは、現時点で最も感染リスクの高いミャンマー人労働者たちに、優先的にワクチン注射をするのかどうかについてである。タイ政府はイギリスのオックスフォード大学とアストラゼネカ社が開発したワクチン、2,600万接種分を購入する契約をしているのであるが、ワクチンは2回接種する必要があるので、実際には約7,000万人いるタイ国民の内、1,300万人分しかない。

今後、バンコク郊外のパトゥンタニ県でのアストラゼネカとの合弁工場での量産が軌道にのれば、タイ国内でももっと出回ると思うが、少なくとも当面はこの1,300万人分を誰に振り分けるかが課題となっている。

当初は医療従事者、高齢者、基礎疾患を持つ人などのコロナ弱者を優先するという計画だったのであるが、今回の感染爆発で事情が変わってきた。一番感染リスクの高いミャンマー人を最優先しないと、この後もさらに感染拡大が続き制御できなくなる可能性があるのと、彼らを無視するのは人道的な問題もある。

1,100万人もの不法労働者がいるといわれるアメリカや、タイと同じように下級労働者のほとんどが外国人労働者であるシンガポールでも同じ問題があり議論されている。不法移民に厳しいトランプ大統領は反対するであろうが、次期大統領のバイデン氏は人道的見地からも不法労働者にもワクチンを接種するべきという考えのようである。一方、タイと同様、外国人労働者の間で最初に感染爆発が起こったシンガポールも、外国人労働者にも接種を認めるということである。

しかし、この記事によれば、北部の国境エリアでは日常的にミャンマー人とタイ人が行き来する自然にできた小道がたくさんあり、ここからミャンマー人はタイを目指して続々と入ってくるので、優先的にワクチン接種といってもキリがないという問題がある。

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一方、ミャンマー人たちにとってみれば、母国ミャンマーではコロナによる不景気で仕事もなくなり、しかも感染爆発で既に医療崩壊が起きていて、病院もこれ以上の患者を受け入れられないという悲惨な状況にある。従って、コロナに感染したらそれこそもう手の施しようがないことからタイを目指すのであり、ある意味、避難民と変わらない状況なのだ。

そんな中、ミャンマー軍は最近、昨年インドから購入した中古のオンボロ潜水艦を披露して軍事力を誇示し、コロナの感染で苦しむ国民のことなどほったらかしで、盛大な式典を行ったというのである。

ミャンマーではそれだけ無能な軍部が権力を握っているということであり、これに比べれば、経済運営がヘタな軍事政権ではあるが、政府を倒すべく反政府デモが繰り広げられる中でも、コロナ制圧に全力を尽くすタイ政府の方がよほど民主的なのかもしれない。

そしてまた、こういうミャンマーの国事情がわかってくると、ミャンマー人たちにとってみれば3K仕事とはいえいくらでも仕事があって、しかもコロナの感染リスクもほとんどなかった安全なタイは、すぐ隣にあってしかも歩いて行ける天国に思えるのかもしれない。

藤澤 愼二(ふじさわ  しんじ) バンコクの不動産ブロガー兼不動産投資コンサルタント
2011年、アーリーリタイアしてバンコクに移住。前職ではドイツ銀行国際ファンドのシニアマネジャーとして、不動産ポートフォリオのアセットマネジメントを行ってきた。 現在は、ブロガーとして「タイランド太平記/バンコク コンドミニアム物語でタイの現状や不動産市場について最新情報を発信中。