選挙公報でカジノ賛成ゼロの横浜市議会:住民投票でIR誘致の是非を!

カジノ誘致に関する市民の声と林文子市長の行動変容

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カジノは負けて不幸になる人がいて、初めて成り立つビジネスモデル。新しい価値を生み出すわけでもなく、不幸な人を生み出した上で一部の人たちの利益になる。これは健全な成長戦略とは言えないということをまず冒頭に申し上げ本題に入る。

2017年7月の横浜市長選当時、共同通信社の出口調査の結果では、61.5%の人がカジノは「誘致すべきではない」であり、「誘致すべきだ」の人はわずか16.3%だった。林文子横浜市長は2017年7月の市長選を前に「白紙状態」であることを宣言し、選挙での争点化を避けて、当選を果たした。その後、行われた横浜市のパブリックコメントでも、94%が否定的だった。

こうした状況を見ても、多くの市民はカジノを進めることを望んでいない。林市長は、議会においても「白紙から態度を決める場合は市民の声を聞く」と言っていた。それにも関わらず、2019年4月の統一地方選挙、7月の参議院議員選挙を終えた直後の8月に、それまでカジノの争点化を避け続けていた政府与党と共に、だまし討ちでカジノを含む統合型リゾート(IR)を横浜市へ誘致したい意向を表明した。

林文子横浜市長による表明は、2019年の国会においてカジノ管理委員会が設置されるという状況にせかされ、横浜市民に対して十分な説明責任を果たさないまま、カジノ誘致を強行しようとする不誠実極まりないものであった。

2020年6月に発表された神奈川新聞とJX通信社が合同で実施した市民意向調査によれば、横浜市が進めるカジノを含IRの誘致に対し、横浜市民の66.43%が反対している。全国を見渡しても、2020年1月の共同通信社の世論調査においても、IR整備を「見直すべきだ」との回答は70.6%に達した。

こうした状況を見ても、多くの国民はカジノを進めることを望んでいない。カジノ事業関係者だけの声に耳を傾け、数少ない良い部分だけを切り取り、都合良く喧伝を行って、カジノ誘致を強行することは決して許されるべきではない。

132年の横浜市政で最も数を集めた住民投票を求める署名の重み

そうした現下に危機感を持った多くの市民が連携し、市民団体「カジノの是非を決める横浜市民の会」が立ち上がった。

IRの横浜市への誘致の賛否を問う住民投票を目指し、住民投票条例制定の直接請求に必要な約6万2500人分の3倍以上となる19万3193筆を署名を集めることに成功した。

署名の提出を受けて横浜市は、有効署名が約6万2500人分以上あるかを審査し、必要数を確認できれば、林市長が市議会に住民投票条例案を提出する。そして市議会において住民投票条例案を可決すれば、60日以内に住民投票が行われる。

横浜市サイトより:編集部

横浜市が明治22年(1889年)に市制施行されてから132年。132年の歴史ある市政の中で最多の署名数を集めた「横浜市におけるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致についての住民投票に関する条例の制定を求める署名」。林市長は、住民投票が実現し、反対が多数となったら誘致を撤回する考えを示した。

私は、したたかな発言だなと感じた。この球には、こうした意図が込められていると推察する。

①住民投票条例案を横浜市会に提出し、否決される

現在の横浜市会議員数は、定数86人に対して自民党会派が36人・公明党会派が16人など、カジノ推進派の与党に所属する議員が過半数を超えるので、横浜市民の19万3193筆の署名を無視して否決する可能性がある。

その際は、林市長のせいではなく、市民の声を無視して否決したのは横浜市会だと責任転嫁し、横浜市会での議決が横浜市民の声の代弁であり、それを受け止めたと強弁することができる。

②住民投票条例案を横浜市会に提出し、可決される

現在の横浜市会議員数は、定数86人に対して自民党会派が36人・公明党会派が16人など、カジノ推進派の与党に所属する議員が過半数を超えるが、横浜市民の19万3193筆の署名で示された意向は極めて重たいと自民党もしくは公明党が判断し、可決する可能性がある。

その際は、民主的にフェアにやろうと決めたのは横浜市民に選ばれた横浜市会議員で形成する横浜市会であり、過半数を握るのは自民党・公明党などの与党会派であることから、林市長への責任は及ばず、政府与党からも文句を言われることなく、住民投票が行われる。

③可決後の住民投票でカジノ反対派が勝利

住民投票で仮に反対が上回っても林市長のせいではなく、住民投票をやることに可決をしたのは横浜市会だと過半数を握っていた自民党・公明党会派に責任転嫁することができる。

④可決後の住民投票でカジノ賛成派が勝利

住民投票で仮に賛成が上回ったら横浜市民の信任を得たとして予定通りカジノを誘致し、政権与党に顔向けすることができる。

このようにどの選択肢になっても林市長のせいではないという論陣を張ることができる。

ただどんな展開になったとしても、そもそもカジノは林市長がリーダーシップを持ってやめると言えば誘致されないのである。

選挙公報にカジノ賛成を掲げた現職の横浜市会議員は”0人”

こうなると注目されるのは、横浜市会に所属をする議員の対応である。

国立国会図書館の調査報告書によれば、そもそも2019年の統一地方選挙の際に、選挙公報にカジノ誘致の賛成を示して当選した横浜市会議員は86人中ただの1人もいない。カジノ賛成と公報に掲げて当選した人は、0人(0%)ということである。詳しくは以下のリンクをご覧いただきたい。

横浜市議会議員のIR・カジノ誘致に関する見解【国会図書館調査】

選挙の時には、態度を隠し、誰も約束していないことを強行に進めようとする議員がいるとすれば、その姿勢を市民はどのように思うだろうか。

これだけ揉めている案件であれば、賛成派も反対派も住民投票で民主的にカジノ誘致するかどうか白黒はっきりつけようというのは、否定する理由もないはずである。

そして自分が選挙で約束もしていないことに対して、約20万人の横浜市民から疑義が呈されている事案を無視して、住民投票で市民の声を聞くべきだという条例案を否決するなどという行動を取る政治家がいれば、その行動は、あまりにも市民の声を軽視している。

普通の市民感覚から言えば、住民投票を拒否して市民を無視する形でカジノ事業を強行に進めることは許されない。

選挙公報の記述と議会における行動の整合性

また、この署名に対して、林市長は「住民投票を実施することには、意義を見出しがたい。」との反対意見を述べている。

この林市長の言動は控えめに言って、”民主主義とは何か”ということを全く理解されていないと感じた。横浜市において代表民主制が健全に機能しているならば、国民の約70%が反対し、パブリックコメントで94%が否定的なカジノを強行的に進めたりはしない。

繰り返し申し上げるが、林市長は自身の選挙の時にはカジノは白紙だといい、白紙から態度を決める場合は市民の声を聞くと言っていた。そして、現職横浜市会議員86人の内、選挙公報でカジノ賛成を掲げて当選した横浜市会議員はいない。

これだけの市民の声を全面的に否認すれば、民主主義の根幹を揺るがすことになる。林市長によって憲法に保障される住民自治の理念が破壊される重大な事態に横浜市政が陥っていると断じざるを得ない。

また、林市長は、「その実施のためのコスト等のことも十分考えなければならない」と言及したが、カジノを誘致することによるソーシャルコストは住民投票の実施コストに比べて桁違いの費用がかかることが想定される。そもそも論として住民投票を行う価値を金銭で計る議論にすり替えるべきではない。

こうした中、私たちはカジノの是非を決める住民投票条例案に付された意見に対する撤回の申し入れを行った。

住民投票により実践される民主主義・住民自治の意義を否定し、横浜市の将来と、私たちの子孫の安寧ある未来を憂う多くの横浜市民の切実な熱意と誠意を踏みにじる行為を市長が撤回しないのであれば、我々としても然るべき対応を検討せざるを得ない。

こうした観点から横浜市第100号議案 横浜市におけるカジノを含む統合型リゾート施設(IR )誘致についての住民投票に関する条例の制定について、1月8日まで横浜市会にて議論が繰り広げられる。どの議員がどう言った発言を行い、どのような採決行動を取るのか、横浜市民の皆様方には是非、横浜市会に注目をして頂きたい。