訪問介護サービス利用者が考える緊急事態宣言不要論 --- 加藤 拓

ゲストオーサー

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私は脳性麻痺による身体障害者で、毎日、日中を中心にヘルパーによるケアを受けながら、外での講演や研修講師をして生活している。この1年弱のコロナ騒動と、再びの緊急事態宣言という事態を、介護サービスの利用者という視点で考えてみたい。

まず、今政府がすべきことは緊急事態宣言の発出ではなく、指定感染症の指定解除だと私は考えている。新型コロナウイルスそのものの“被害”は欧米とは桁違いに小さいにもかかわらず、指定解除をしないことにより、医療だけでなく訪問介護の現場も過剰な対策を強いられている。限界まで追い込んでいると感じるからである。

訪問介護サービス利用者にはそれぞれの生活があり、ヘルパーは概ね1週間のローテーションで複数の利用者宅を回るため、可能な感染対策にも限度がある。私の家には毎日2、3人、1週間にのべ15人ほどのヘルパーが出入りする。万一、私がPCR検査で陽性になると、その15人が一斉に現場に出ることができなくなる。PCR検査の結果、たとえ陰性であっても、2週間職場復帰できない。

そんなことになれば地域の訪問介護機能が麻痺してしまい、一人暮らしの利用者を中心にとてつもない影響が出かねない。たった一人でも陽性になっただけで地域の訪問介護をストップさせかねないというプレッシャーの中、ヘルパーの方々も私も、この1年近くを過ごしてきた。離職をほのめかしているヘルパーも複数おり、このような厳戒態勢を継続することは限界を迎えている。

新型コロナウイルスについてわかってきたことが増えている中で、指定延長する理由が私には理解できない。いきなりの指定解除が難しいならば、無症状者への検査と隔離をやめたり、自宅待機の期間を2、3日程度に短縮したりするなど、現実的な対応に変えてほしいと切に願っている。

また、この1年ヘルパーの方々はずっと変わらずケアに入ってくれているが、私の周囲で未だ陽性者は出ておらず、濃厚接触者(陰性)も1名のみ。私自身も体調を崩すことはなかった。

本当に“危険な”ウイルスが蔓延しているのであれば、私もヘルパーの方々もこれまで無事ではいられなかっただろう。私のケアに入る全てのヘルパーもそのように考えており、新型コロナウイルスの脅威を過大評価しているのではないかということを、現場の肌感覚として感じているのだ。

ただし逆に言えば、サービスを利用する以上、利用者は感染症をはじめとしたリスクも引き受けなければならない。制度を利用するということは、そういうことだと私は思っている。

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2020年初頭までであれば、好ましいことではないが風邪症状のあるヘルパーがケアに来ることもあった。そしてその数日後に、私に風邪症状が出たこともあった。そんな時は、腹立たしい気持ちを抑えつつ、お互いに体調に気をつけようなと言って笑って済ませてきたのである。

平時から離職が多い介護業界だからこそ、そういったおおらかな対応が利用者とヘルパーの関係づくりには欠かせない。しかし、新型コロナウイルスが指定感染症であり続ける限り、そのような対応は許されない。医学的、科学的事実に関係なく、絶対に罹ってはいけない、広めてもいけない、罹ると大勢の人が亡くなる危険なウイルスというイメージを固定化させ、それに沿った対応を介護業界と利用者に強いているのだ。この対応は長期間継続できるものではないことをご理解いただきたい。

もちろん、新型コロナウイルスを軽視してよいと訴えているわけではない。ウイルスへの感染や社会情勢の変化によって苦しみ、あるいは亡くなる人は1人でも少ない方がよいに決まっている。

そのために一般的な対策を可能な範囲で続けるべきだと考えているが、私のように日常的に介護サービスを利用している人の生活は、人との接触で支えられているのも事実なのだ。感染拡大防止のために人との接触を避けることを絶対の善とする社会には、私の居場所はなくなってしまう。そうでない人にとっても、今の社会は息苦しいのではないだろうか。

今後ワクチン接種が進んだとしても、新型コロナウイルスの脅威を過大評価し陽性者数にとらわれ続ける限り、この騒動は終わらないだろう。多くの日本人にとって新型コロナウイルス感染症は死病などではないことが共有できて初めて、社会は落ち着きを取り戻すのではないだろうか。

そのためには政府による明確なメッセージが必要であり、指定感染症からの指定解除はその第一歩になり得ると考えている。医療現場、介護現場が無理なく続けられる範囲の対策に切り替えることができるよう、また、人々が友人や同僚と気兼ねなく集まることができる穏やかな生活を取り戻すために、政府の英断を強く願わずにはいられない。

加藤 拓  福祉教育講師、介護研修講師
脳性麻痺による身体障害者。大学で教員免許を取得し、卒業後は地域の学校で障害理解教育の講師を務めている。また、2020年7月からはヘルパー向けの研修講師も担当している。