「不安」は人々を銃に走らせるか

中国武漢発の新型コロナウイルスの感染が拡散する一方、コロナ感染防止の特別措置が長期化することによって、コロナ疲れが人々の間で見え出してきた。精神的疾患に悩む若い世代も出てきた。それだけではない。武器を購入する国民が急増してきているというのだ。

▲エドヴァルド・ムンク作「叫び」(ウィキぺディアから)

欧州で2015年から16年にかけ、100万人以上の難民が中東・北アフリカから殺到した時も銃を購入する件数が急増したことがあった。その5年後の2020年、新型コロナの感染が広がり、多くの犠牲者が出ている。そして同じように銃を買う国民が増えてきているというわけだ。

人は不安になると、精神的に動揺する一方、銃を購入して自衛手段に乗り出す人々も出てくるのだろうか。不安は人を攻撃的にさせるのだろうか。

オーストリア代表紙プレッセによると、同国で昨年、銃への需要がこれまでにないほど増加し、前年度比で約10%増を記録、総数7万1250丁の銃が売られた。前年度比で6400丁の銃器、ライフルとハンドガンが多く売られた。中古のライフルは前年度比でほぼ16%増、ハンドガンは約7%増で、総数5万2300丁の中古武器類が売られた。新しい武器も前年度比で約5%増(1万9000丁)で、散弾銃、ライフルと複合ライフルはピストルやリボルバーより増加率は大きかった。

ちなみに、オーストリアでは昨年末まで武器分類でB、C、Dのカテゴリーの武器115万丁が個人所有だ。前年度比で約5%、5万3000丁増だ。同時に、昨年は約3万9000丁の武器が登録から外され、新規登録された武器は9万1000丁だった。

銃器への需要増の理由として、狩猟への関心が膨らんだからだという。新型コロナ感染でロックダウン(都市封鎖)が実施され、時間が出来た人々が森林や狩場に出かけて狩りを楽しむからだという。その上、ハンドガン所持許可書で狩りの訓練が出来るようになった2019年の改正武器法が人々の狩猟への関心を高めたという。

ところで、ロックダウンの結果、時間が出来た国民の間で狩りへの関心が高まり、国民が武器を前年度より多く購入するようになったという分析は正しいだろうか。狩場で狩りを楽しむのは昔も今も裕福な社会階層の人々と特定の愛好家に限られているからだ。

正式に登録された武器総数は115万丁だが、治安関係者は、「実際はその倍以上の武器が保持されているとみるべきだ」という。すなわち、治安状況と武器の拡大は密接な関係があるというのだ。ボスニア紛争時、多くの難民がオーストリアに逃げてきたが、その後、武器使用犯罪がオーストリア国内で増えた。ボスニア紛争の影響で不法な大量の武器がオーストリアに流れ込んできたからだ。紛争や戦争は周辺国家の治安も悪化させることは周知の事実だ

オーストリアでは武器だけではなく、携帯警報機や唐辛子スプレーを購入する国民が増えてきている。ということは、難民の殺到(2015年、約9万人の難民が流入)、新型コロナ感染拡大といった想定外の出来事に遭遇した国民が自身や家族の安全確保の手段として様々な武器を購入するケースが増えているというべきだろう。

興味深い点は、オーストリア内務省が発行する犯罪統計を見る限り、犯罪総件数は年々、減少傾向にあることだ。統計から言うならば、「治安は安定化している」といえる。なのに武器を買う国民は増えているわけだ。問題は国民の安全に対する体感は統計とは明らかに異なっていることだ。

国民は15年の難民殺到の時も、そして20年の新型コロナ感染拡大でも不安に襲われてきている。そのような状況下で、武器を購入する国民が増えるというのはある意味で理解できる。例えば、米国では国内の治安状況が悪化すれば、武器を購入する国民が急増していることは良く知られていることだ。

オーストリアで昨年12月12日、同国とドイツで極右派テロ組織のネットワークが発覚し、多数の武器、弾薬などが押収された。極右派グループは、組織犯罪グループと武器取引業者らと接触し、麻薬売買を通じて武器購入資金を調達し、ドイツ国内で「極右派民兵」の創設を狙っていた。極右過激派は麻薬の不法売買で資金を集めた後、イスラエルのIMI社製短機関銃ウジ、カラシニコフの自動小銃AK47、チェコ製短機関銃スコーピオン、突撃銃などの武器や弾薬を購入していた(「欧州の極右過激派『民兵の創設』画策」2020年12月14日参考)。

アルプスの小国オーストリアは欧州では治安が安定している国に数えられてきたが、その国でも武器はもはや一部の犯罪グループだけが所有しているものではなくなりつつある。新型コロナ感染の拡散で人々は不安に襲われている。ハンドガンでは新型コロナ感染を防ぐことは出来ないことは分かっていても、不安から逃れるために銃に手を伸ばす人々が増えてきているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。