オーストリアのネハンマー内相は12日、記者会見を開き、同国とドイツで極右派テロ組織のネットワークが発覚し、多数の武器、弾薬などが押収されたことを明らかにした。捜査関係者は押収された武器類の規模の大きさに驚いたという。極右派グループは、組織犯罪グループと武器取引業者らと接触し、麻薬売買を通じて武器購入資金を調達していた。彼らの目的はドイツ国内で「極右派民兵」の創設にあったという。オーストリアで5人、ドイツで2人の極右派活動家が逮捕された。
捜査結果によると、過去3日間の捜査で70丁を超える武器、自動、半自動拳銃、弾薬が極右過激派の拠点から押収された。容疑者の主犯は53歳の極右派活動家で治安関係者にはよく知られた人物で、前科がある。
捜査は当初、ウィーン市犯罪局が麻薬犯罪を捜査している段階で極右過激派と組織犯罪グループの繋がりが浮かび上がってきたという。極右過激派はドイツで活発な動きを見せているため、ドイツのバイエルン州とノルトライン=ヴェストファーレン州の犯罪当局が捜査に加わったという。
捜査関係者によると、オーストリアの極右過激派グループとドイツのバイカー暴走族グループ(Biker-Gruppierungen)が繋がっているという。極右過激派は麻薬の不法売買で資金を集めた後、イスラエルのIMI社製短機関銃ウジ、カラシニコフの自動小銃AK47、チェコ製短機関銃スコーピオン、突撃銃などの武器や弾薬を購入していた。それらの武器類は10日、コンテナーで見つかり、11日にはニーダーエステライヒ州の倉庫で10万以上の弾薬と銃器が見つかったという。
オーストリアの捜査と並行してドイツでも2人が拘束され、キロ単位の麻薬類が押収された。また、押収された武器は76丁、自動、半自動機関銃、14丁のハンドガンと弾薬。また、TNTダイナマイト、軍用爆弾トリメチレントリニトロアミン、現金、軍用小道具、武器サポート、ライフルヘッドライトなどが含まれていた。一方、押収された麻薬類はアンフェタミン類、コカイン、マリファナ、ヘロインなどだ。容疑者名は公表されなかったが、「オーストリアでもよく知られているネオ・ナチストだ。彼らは極右民兵の構築を計画していた」という。
ネハンマー内相は、「ネオナチグループは新しい極右集団、例えば、『旧ドイツ帝国公民』運動( Reichsburgerbewegung)とネットワークを構築してきている」と指摘し、警戒を呼び掛けている。
シュピーゲル誌によると、ドイツでは約1万6500人の自称「旧ドイツ帝国公民」がいる。その内、約900人は極右過激派だ。約1100人は合法的に武器を所持している(「『ファンタジー帝国』に住む人々」2018年1月31日参考)。
オーストリアでは11月2日、ウィーン市でイスラム過激テロ事件が発生し、4人が犠牲となり、23人が重軽傷を負うテロ事件が起きたばかりだ。一方、ドイツでは極右過激テロリストのテロ事件が頻繁に起きている。
例えば、ドイツ中部ヘッセン州カッセル県で起きたワルター・リュブケ県知事殺人事件はドイツ国民に大きなショックを与えた。リュブケ県知事(65)は昨年6月2日、自宅で頭を撃たれ倒れているのを発見され、収容先の病院で死亡した。同県知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は同県知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている。また、旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で昨年10月9日、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生し、犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。
今年に入り、独陸軍特殊部隊(KSK)の中に極右過激派が潜伏しているという情報が流れた。KSKでは2017年から極右派隊員の不祥事が報じられてきた。17年4月の司令官のお別れパーティーで“ヒトラー敬礼”をする隊員がいたという。パーティーに招かれたゲストの中には自宅に大量の銃や爆弾を保持していた人物がいたことが後日、発覚している。今年1月の独軍事対諜報機関(MAD)の報告によれば、KSK内で少なくとも20人の隊員が極右過激派の疑いがあるという。ドイツの極右派グループは、既成の国家体制が崩壊する時を「Xデー」と呼び、その日に備えて万全の態勢を敷いているという(「独軍特殊部隊に潜伏する極右過激派」2020年7月2日参考)。
なお、ニュージーランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2つのイスラム寺院(モスク)で昨年3月15日、銃乱射事件が発生し、49人が死亡、子供を含む少なくとも20人が重傷を負った。その主犯、白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉するブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)はオーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)のリーダー、マーテイン・セルナー氏(Martin Sellner)に1回、寄付金を送っていたと報じられたが、ここにきて「タラント容疑者とセルナー氏の関係は考えていた以上に密接だ。寄付金も数回送られていた」といわれている(「欧州の極右は『三島由紀夫』ファン」2019年8月30日参考)。
イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)はその指導者が殺害され、組織としての求心力を失ったが、欧州ではISのシンパたちが独自にテロを行うケースが増えている。一方、極右過激派テロ組織はドイツを中心に結束する動きがみられる。オーストリアの極右過激派の動向には要注意だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。