1月6日は、アメリカにとって象徴的な日になるはずだった。民主的に選ばれた政治家たちが民主的プロセスを経て選ばれた大統領候補を、正式に次期大統領として認定する。建国時から行われてきたその儀式は、民主主義を体現する国であるアメリカで当たり前のように行われてきており、今回も問題なく行われるはずだった。
しかし、その日筆者がSNSを通じて目にしたアメリカは、時には自由と平等のために命を懸け、あらゆる側面において世界のリーダーとして君臨していた国の姿とは程遠いものであった。
司法省、全米各地の裁判所が大規模な不正の実態を否定してもなおトランプ大統領は未だに選挙が不正だったという持論を崩していない。それだけではなく、1月6日に行われた演説では彼の支持者に向けて選挙の不正を訴えるために大統領選の集計が行われようとしているアメリカ議会に向かうように示唆した。
そして、それが及ぼした結果は散々たるものであった。アメリカ議会に集まったトランプ支持者は暴徒化し、議会の警備を突破して、議会内に侵入した。そして、議会は混乱に陥った。
議会内では奴隷制の象徴である南軍旗がなびき、議長席には暴徒が居座った。SNSを通じて流れてきたそれらの場面を描写する写真はショッキングなものであった。また、この記事を書いている時点で議会内外で4人の死者が発生し、事態は流血の惨事にまで発展した。
この事態を招いたのは紛れもなくトランプ大統領、その人である。彼は在任4年間で狂信的な支持者を生み出し、彼らはトランプ氏の主張を信じて疑わない。そして、今回のような暴動に発生する可能性は十分に考えられたのにもかかわらず、トランプ氏は怒りに満ちた彼らを議会に向かうように教唆した。トランプ氏が今回の暴動を誘発させるきっかけとなったという事実は否定できない。
そして、この事態に受けて、トランプ大統領に修正憲法25条を適応するように求める声が現れだしている。
修正憲法25条とは
修正憲法25条とは米国憲法に規定されている大統領の権限を大統領自身からはく奪することを可能としている条文のことである。
条文によると、副大統領として政権内の閣僚の過半数が大統領が職務の継続を出来る状態ではないことを議会に宣告すると、大統領の即時免職することができる。つまり、ペンス副大統領とトランプ政権の閣僚らが今回の事態を引き起こす元凶となったトランプ氏をクビにすることが理論上、憲法上可能なのである。
そのこともあり、ワシントンポスト紙は社説で残り2週間で任期を終えるトランプ氏に25条を適応するように要求した。また、同様に全米の製造業者を代表する圧力団体である全米製造業協会は、政権幹部にトランプ氏の即時免職を要求したとの報道があった。
それに加え、政府関係者の中でも25条の適応を検討する動きが出てきている。しかし、トランプ氏は自分の周りには彼に忠実なイエスマンを固めており、反抗の意志を見せた閣僚はすぐに解任するため、25条が実際に適応される可能性は低い。だが、この条文の適応が政府内で上がること事態が前代未聞であり、いかに事態が深刻に受けとめられているかが分かる。
裏切られた期待
日米ハーフで、アメリカ市民権を持つ筆者は、トランプ大統領に一時は期待を寄せていた。想像的破壊によってアメリカという国の制度、システムを良い方向に向かわせることができると思っていたからである。それもあってか、結局はバイデン氏に一票を投じたものの、バイデン氏とトランプ氏のどちらかに票を投じるかをすぐには決められなかった。
しかし、今回の一件で改めて自分が過去に考えていたことを悔やんでいる。彼は任期を通して国をまとめることをせず、社会の分断を深め、それを助長した。そして、任期の最後にはアメリカの民主主義に深い傷を負わせる事態を引き起こした。
暴力によって民主主義的なプロセスを覆す事態を誘引し、アメリカの民主主義の脆さを世界にさらすことで、秩序を重んじ、人権を軽視する強権的な政権が自らの権威を正当化する格好の事例を作った。それに加え、世界各地で圧政と戦い、アメリカのような自由な社会の実現を目指す人々の希望にひびを入れた。
最後に、自分のSNSのタイムラインで流れてくる、議会内外の騒乱の様子を捉えた動画や写真を目の当たりにして、こう思わずにはいられなかった。
2021年1月6日はアメリカ史に残る汚点となった。そして、それを引き起こしたトランプ氏は大統領として不適格である。