日本の資産運用会社は、なぜスケールメリットを追求しないのか?

世界的な株高の中で、ETFの残高が急激に増えています。そんな環境下で世界では資産運用業界の再編が進んでいます。ETFの代表的商品であるスパイダーズ(SPDR、アメリカ株のインデックスに投資するETF)を運用するステートストリートが、資産運用部門の売却を検討していると日本経済新聞が報じています(図表も同紙から)。

(日本経済新聞から)

(日本経済新聞から)

スパイダーズは残高が何と30兆円。日本の最大規模の投資信託の30倍という巨大ファンドです。にもかかわらず、ステートストリートが業界からの撤退を検討しているのは、手数料の引き下げによる競争の激化です。

ETFマーケットでは、図のようにブラックロックとバンガードがシェアを伸ばし、大手2社の寡占状態が進んでいます。

世界の資産運用の主流となりつつあるインデックス運用では、アクティブ運用とは違ってファンドの規模に制限なく運用できますから、スケールメリットを生かして手数料を下げていけば、マーケットシェアを高めることができるのです。

日本でもインデックス運用へのシフトが徐々に始まっていますが、運用会社は手数料の高いアクティブファンドに収益を依存しています。

その結果、日本には3000本以上の投資信託がある中で、残高が小さく手数料の高いファンドが多いのです。投資家にとっては、選択肢が多いと言うより、高コストのファンドがたくさんありすぎて、混乱を招くデメリットしかありません。

日本の資産運用会社は銀行や証券会社の系列があって、規模を追求しよういうインセンティブよりも、グループの利益を優先する傾向があります。このような資産運用会社の経営が、日本の個人投資家のすそ野を拡大する妨げの1つになっているのです。

果たして、このような状況はいつまで続くのでしょうか?


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2021年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。