ポピュリストから大衆扇動家に堕したトランプ

2021年01月09日 06:00

最強国が生んだ最悪の大統領

悪あがきを続けてきたトランプ米大統領が7日、ツイッターで事実上の敗北宣言をだしました。民主主義のシンボルである連邦議会議事堂に支持者が乱入した事件を煽ったことが致命傷になりました。トランプ氏はポピュリストを通り越して、煽るだけの大衆扇動家に堕してしまいました。

ホワイトハウスサイトより:編集部

20世紀最悪の独裁者がドイツのヒトラーとすれば、トランプ氏は21世紀最悪の扇動政治家(デマゴーク)の有資格者です。感情的なフレーズに手振りを交え、ネット時代のSNSを駆使、7500万票(バイデン氏は8000万票)を獲得したところみると、希代のアジテーターではありました。

各国の首脳は口を極めてトランプ氏を非難しています。「米国は世界中の民主主義を象徴する存在。米議会で恥ずべき光景」(英ジョンソン首相)、「腹が立ち、また悲しい」(独メルケル首相)などです。

敵対国の中国、ロシア、イランなどは、「民主主義の危機ではないか」と言わんばかりに嘲笑しています。日本の菅首相は何かコメントをだしたかどうか報道されていません。加藤官房長官の「私どもも懸念を持って注視している」との発言だけ短く報道されています。

民主主義の重大局面です。日本にとって米国は最大の同盟国であり、安倍・前首相はトランプ氏と緊密な関係を築きました。安倍氏か菅首相かが暴挙を批判する発言を聞きたかったと、多くの人が思った違いない。

国際社会で日本が影が薄いのは、国際的な危機に対し、タイムリーなメッセージすら送れないからです。いくら新型コロナ対策の非常事態宣言を再発動する最中とはいえ、国際感覚があまりにも鈍い。

「トランプ政治とは、所得不平等を背景として生まれた米国内の巨大な政治不満を吸い取る場」(竹森俊平慶大教授)でした。グローバリゼーションで所得格差が拡大し、その一方で移民や非白人の進出に伴い、低学歴の白人労働者が取り残され、不満が高まっています。

トランプ氏への支持には、こうした米国社会の分断が背景にあります。「二大政党の分極化と拮抗が進み、米国政治の基本的な性格について再検討することが歴史的な意義を持ち始めている」(岡山裕教授/アメリカの現代政治)ことなのでしょう。

トランプ氏の問題提起には意義がありました。対中強硬路線にも支持が多かった。それが大統領選で敗色濃厚になると、「巨大な不正投票が行われた」として、証拠もなく何度も裁判に持ち込むなど、狂気の沙汰の域に達してしまいました。

「狂気の沙汰」については、在任中から性格障害の傾向があるとの指摘が専門家から指摘されていました。「恐れ知らずの支配性」「度重なる極端な発言が示す衝動性」「加虐性や妄想性」「サイコパス症状(性格障害の一種)」などです。

その一方で、演説はバイデン氏より巧みでした。希代のアジテーターだったことは間違いないと、思います。大衆を洗脳する能力には長けていました。ドイツを破滅の底に追いやったヒトラー(ナチスの党首、国家元首)の大衆扇動術とよく比較されます。

ヒトラーは「ポイントを絞って同じことを繰り返す」「嘘も百回言えば、真実になる」の演説技術を駆使していました。「全ての労働者に職とパンを」など、短いスローガンで大衆を引き付けました。

トランプ氏はヒトラーの相似形です。しかも、トランプ氏にはヒトラーにないネット時代のSNSという情報拡散武器がありました。

トランプ氏は「新型コロナはチャイニーズ・ウイルス」と呼び、自らのコロナ対策の失敗を中国になすりつけました。自分がコロナに感染して緊急入院したというのも「仮病」を装ったのだではないかと、私は疑っています。

「コロナ感染」で支持者にショックが走る。3日間で退院し、不死鳥のように甦ったように見せてみる。終盤の劣勢を自作自演の大芝居でひっくり返す。そのくらいのことを平気でやってのける男です。

連邦議会議事堂への侵入を煽ったところで、トランプ劇は閉幕です。「暴力行為を強く非難する」「選挙戦後の無謀な振る舞いに愕然とする」などとの批判が噴出し、自らの敗北を認めて引き下がりました。

トランプ劇は第一幕は終わっても、間もなく第二幕は始まるとの、見方が強い。第二幕の主役はまたトランプ氏なのか、別人なのか。トランプ氏は刑事訴追につながる多くの疑惑を乗り切れるのかどうか。

米国社会、政治の分断は続き、民主党と共和党が勢力を拮抗したまま、さらにコロナ危機が尾を引く。バイデン次期大統領が高齢だけに、米国政治の行く方はリスクに満ちています。

民主主義の重大な危機に直面して、首相がコメントも出せない、出さないというのも、日本の危機でありましょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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ジャーナリスト、元読売新聞記者

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