障害者権利条約批准国がデジタル・アクセシビリティにどの程度対応しているかを評価する、DAREと呼ばれる指標がある。DAREは三要素で構成され、第一は障害者差別禁止など法律等の整備状況、第二は政府に専門組織があるかなど体制の整備状況、第三はウェブやテレビなどでの対応状況の実態である。
DARE評価は2020年まで実施され、結果が公表されている。日本の評価は36点(100点満点)で、世界75位!
世界1位はカタールで89点、オーストラリア80、イスラエル79と続く。G7諸国では、イタリア75.5点、フランス72.5、米国71.5、英国66.5、ドイツ62.5、カナダ56で、これらと比べれば、日本の評価は恥ずかしいというしかない。
わが国はデジタル・アクセシビリティの後進国である。
日本が劣位の第一の原因は、デジタル・アクセシビリティに関わる法律等が整備されていない点にある。米国には、連邦政府等を対象とする「リハビリテーション法」と、公民問わず対象とする「障害をもつアメリカ人法(ADA)」がある。ハーバード大学が提供する無償教材(MOOC)に字幕がないと、ADAを根拠に聴覚障害者団体から訴えられ、大学が実質的に敗訴した例がある。
欧州には、2019年に成立した「欧州アクセシビリティ法」や、公共機関サイトにアクセシビリティ対応を求める「2016年欧州指令」がある。
それに加えて、欧州連合などはデジタル・アクセシビリティの改善方法について、啓発に乗り出している。この啓発活動の不足が第二の原因である。
欧州連合の出版局は「POCRDDA」というプロジェクトを推進している。これは、どのように文書を改善したら、読み上げに障害のある人が文書にアクセスできるかを実証するプロジェクトである。
POCRDDAのサイトでは、PDF、HTMLおよびePubについて、元のページと改善後のページを比較できる。
HTMLでは、FACIL’itiという支援技術を使用した事例が掲載されている。オリジナルと、FACIL’itiで白内障に対応した場合を比較すると、白黒反転して大きな文字サイズで表示するので、読みやすくなった様子が一目で理解できる。
政府は「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」を掲げて、デジタル庁の設置など行政DXを進めようとしている。これは、わが国が遅れてきた法律等の整備への動きと評価できる。
しかし、それだけでは限界がある。どのように具体的に対応したらよいかがわからないからだ。欧州連合のPOCRDDAを見習って、政府は啓発活動に乗り出してほしい。