これも学習マンガだ!2020

2021年01月18日 14:00

これも学習マンガだ! 2020年選書50選
里中満智子さん堀江貴文さん佐渡島庸平さんらと選びました。

ハコヅメ
映像研には手を出すな!
ダンス・ダンス・ダンスール
ブルーピリオド
銀河の死なない子供たちへ
のコメントを書いたので共有します。

映像研には手を出すな

女子高生の部活闘魂記であり、アニメの創作日記であり、空想+妄想のメカSF。その三様のミックスが魅力である。

空想力と作画力に秀でているがコミュニケーションに若干の難がある子。同じく作画力があり、華がある読者モデルでセレブであるゆえに悩む子。ビジネスだけに興味があるプロデューサ気質の子。オタク世界をあえて三様の女子に担わせた。

2050年の設定ながら、バラックの部室に銭湯に、「あっとおどろくタメゴロー」など昭和のセリフ。妄想とアニメに登場するのも、プロペラ、チェーンソー、キャタピラ、ロボットなど油臭いメカばかり。それは、いつでもあり、どこでもある。

悪者やイヤな大人がいるわけではない。大事件が起きるわけでもない。それでも親や学校とせめぎあいながら、彼女たちは夢をアニメに実装すべく奮闘する。

緻密なメカと壮大な妄想を現実空間に融合させる独特の作風を見事に映像化した湯浅政明監督のアニメ版も秀逸。

○ハコヅメ

むさくるしいな男社会に生きる若い女性警官の奮戦記。テレビや映画の警察モノのような、大事件や巨悪を追うアクション、サスペンス、推理モノではなく、スリや痴漢、痴話げんかの仲裁に汗をかく等身大の警察官の日常がていねいに描かれる。

登場人物たちも、ヘタレでめんどくさがり、恋もしたいし遊びもしたい、徹夜続きや危険な職務のブラックさにブツブツ文句もたれる。けれど鬼の形相が染み付いた上司や先輩たちはみな心根がやさしく、気配りも一級品だ。見えない所で命をかける、世間から評価されない、そんな仕事に一所懸命に打ち込むことの美しさがそこにある。

きめ細かなセリフと表情の応酬が紡ぎ出す上品なギャグマンガでもある。一コマに込められた味わいが深く、読み進めるのに時間がかかる。「こち亀」のような破天荒なキャラがいなくても警察はネタの宝庫。警察に10年勤めてマンガ家に転身した作者ならではの、現場への愛情とリアリティの結晶。

○ダンス・ダンス・ダンスール

「男らしさ」を気にかけて、バレエへの想いを封印してきた中学生が踊りに目覚め、女性中心の世界に遅まきながら飛び込む。そして暴れ、楽しみ、苦しみ、弾けていく。その弾けっぷりがいい。

音楽に、リズムに、肉体の表現に、感情にまかせて弾けていく。パートナーやライバルと切磋琢磨して自分の表現を、肉体と技術を磨いていく。とはいえそこは歴史と理論の積み上がった伝統芸術の聖域。世界の最高峰は途方もなく高い。コーチや先生と学び、ぶつかり、歩を進めていく。そして気がつけば高みの世界が舞台になっている。

しかしこの作品は単なるド根性の成長物語ではない。その真骨頂は、マンガが踊りをここまで表現できるということを証明してみせた点にある。ダンスの場面になるや、肉体の躍動、リズム、アングルやコマ割り、その表現すべてがキラッキラに輝き、経験したことのない没入と恍惚を得られる。

主人公はまだまだ成長途上。行く末が楽しみだ。

○ブルーピリオド

絵を描くことに魅せられた男子の「東京芸大一直線」。

成績は抜群、遊びも派手で、高校生ながら酒もタバコもやる人気者イケメン。でも内実は空虚。そんな主人公が一枚の絵に心を奪われ、ぐいぐい美術の世界に引き込まれる。思い描いていたのとは異なる進路に挑戦する。

無論、楽しい。学ぶことばかりだ。できなかった表現がだんだんできていく。そして、苦しむ。もがく。絵画はひとりぼっちだ。でもぐるりと辺りを見回して気づくものもある。友だち、ライバル、先生、交わるから身につくものもある。

一次試験で表現する自画像の二面性が主人公をよく表している。不良と優等生、努力家と臆病者、ロマンティストとリアリスト。だけど決して主人公は特殊ではない。誰もが多面性を併せ持ち、進路だって単線ではない。芸術にしろ、勉強にしろ、スポーツにしろ、自分を見つめて、自分の道を決め、悩みながら歩む。みんなが経ていく道だ。自分の進路を考えるテキスト。
○銀河の死なない子どもたちへ

人類が滅んだ未来で無限の時間を生きる子どもたち。ラップ好きの無邪気な姉と、読書好きの内向的な弟。そして同じく不老不死のママ。姉は自然、弟は文明、ママは神を表しているようだ。

「1万年前、私はこの未来を見ている」「1万年後も私はきっと同じ星空を見ている」という冒頭から、悠久の時間が描写される。時間が無限にあるということは、何でもいくらでも探求できて、どこへ行っても戻ってこられる。死ぬという究極の恐怖から免れている。

それだけに、身近な命が失われることが唯一の危機となる。ペットの生は彼らから見れば一瞬で、しかしその死は愛の欠如となってずしんと永遠に残る。空からやってきた人間の子を育て、やがて死ぬ。不老不死を拒否して死ぬ。それを機に姉は人間となることを求めて、つまり死を求めて、ドキドキワクワクと旅立つ。

生とは、死とは。永遠とは、一瞬とは。ユルい絵柄のキャラゆえに、入り込みやすく、深く考えさせられる。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2021年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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