大義名分なき広島の大規模PCR検査、知事は説明責任を果たせ

椋木 太一

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、広島県は、広島市民ら最大80万人にPCR検査を行うことを決めました。湯崎英彦知事が1月19日、正式に表明しました。

Feodora Chiosea/iStock

報道等によりますと、2月上旬をめどに大規模PCR検査を開始し、一通り終えるには「1~2か月」かかるとみているということでした。費用や検査方法、場所、医療体制等の詳細は明らかになっていません。

この大規模PCR検査については先日、アゴラにおいて、「医療崩壊の恐れ」、「感染抑止効果への疑念」、「決定プロセスの問題」の3つの問題点を指摘させていただきました。(参照 「広島が大規模PCR検査実施へ:”世田谷モデル”の失敗を繰り返してしまうのか」)

この前回の記事から新たに明らかになったのは、①検査期間が「1~2か月」という見込み②広島県が大規模PCR検査の実施方針を決めた過程等ーーの2点です。さらに、広島県は当初、広島市が緊急事態宣言に準じる地域になると見込んでいましたが、国に認めさせることができなかったことも、大きな変更点です。順次、これらの点について問題点等を指摘させていただきます。

まず、検査機関が「1~2か月」かかる見込みです。

これだけの期間を要するということは、PCR検査の性質上、「無症状の感染者を早期に発見して抑え込む」という広島県の言い分が論理破綻していることにほかなりません。少しでもPCR検査について見聞きした方々なら、お分かりだと思います。検査時に「陰性」でも、帰り道にウイルスに曝露すれば、「陽性」になるのです。というわけで、毎朝、体温を測って体調管理するぐらいの頻度でPCR検査を受けなければ、感染者を抑え込むなどできません。

次に、実施方針を決めた過程等について触れます。

【大規模PCR検査 決定過程】

  • 1月12日 県の集中対策素案のたたき台作成 
  • 1月13日 県専門家会議(反対意見多数。報道によると、全委員が反対意見)
  • 1月14日 昼過ぎ 県内の全市町に対し、素案への意見等を募集(締切16時)
  • 同    17時30分 県対策会議開始
  • 同    夜     大規模PCR検査の実施方針を明らかにする

大規模PCR検査を実施する上で<当事者>とも言える広島市は、蚊帳の外でした。県の専門家会議のメンバーに市立病院の関係者が名を連ねていますが、報道等によりますと、同会議の意見は「(実施に)反対」ですので、広島市の意見も踏まえたものとは言えません。

また、県内の全市・町に対する素案への意見募集は、実に形式的なものとなっています。まず、意見を募り始めたのが1月14日の昼過ぎで、締め切りは同日午後4時。そして、素案が議題になった県の対策会議は1時間30分後の同日午後5時30分に始まっています。そのような急な意見募集によって、どうやって各市町の意向を素案に反映できるでしょうか。広島市をはじめ、各市・町の意見を踏まえるつもりがあるとは到底思えません。検査自体は無料ですが、運営等にかかる費用の原資は税金で賄われています。つまり、各市・町(住民=県民)の意向を無視するような意思決定には瑕疵があり、その上で出来上がった集中対策案(大規模PCR検査を含むもの)に、正当性を見出すことはできなくなるのです。

広島県の担当部局によりますと、検査方法や検査場所、受検人数や陽性率の見込み、医療体制等、詳細は「これから詰めていく」としています。人数見込みが出ていないので当然、費用も算出できません。国からの費用で賄うということですが、これも公金です。行政が予算を見積もらず、ただ、「この事業をやりたい」では、納税者の理解は得られません。2019年の「ひろしまトリエンナーレ」(新型コロナウイルスの影響で中止)でも指摘しましたが、広島県の行政運営は、公金を使っているという感覚が乏しいように思えて仕方がないのです。

無症状者はホテル療養ということになるということです。しかし、無症状といえ陽性反応が出た以上、「患者」となるわけで、広島市が毎日、「患者」の健康観察等の業務にあたることになります。医療体制、行政(広島市)、「患者」の様々な関係者等々に広範で多大な負荷がかかり、新型コロナウイルスを抑え込むどころではなくなります。

準緊急事態宣言地域から外れた理由は、「広島市の感染者数が減少している」ということでした。そして今、多大な公金・人材を使って2ヶ月もかけて大規模PCR検査をやる<大義名分>など、どこにもないのです。莫大な費用や時間、労力を医療体制の拡充、生活・経済支援、重症化の可能性が高い高齢者らへの対策などに向けるべきなのです。