2021年、観光業の行方

観光業への打撃は近年、訪日外国人の驚くべき増加の反動が大きくなったという点でその衝撃度は他の業界よりも大きなものになっているかと思います。

世界の観光業のGDPに占める割合は概ね10%、また全就業者数に対する割合も10%程度となっています。また、観光業への金額が多い国はアメリカ、中国がダントツですが一桁違うものの日本が3位で40兆円程度、その下にはドイツなど欧州各国と肩を並べています。一方、日本国内のGDPに占める旅行消費は5%程度で世界水準からは低めとなっています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

近年だけの動きを見れば突然の日本ブームでどこもかしこも外国人だらけ、おまけに宿泊施設も案外、日本的な古臭い建物が好まれたりして十分な投資が進まなかったという印象があります。星野リゾートは攻めの経営をしていますがそれは初めて来る顧客が国際水準により近く、満足してもらえる運営ができる点が評価されているものと察します。

私もかつてカナダでホテル事業をのぞき見させて頂いたことでカナダ人の旅行に対する考え方を理解していますが、求めるものは盛りだくさんです。「そこに行く(泊まる)のは初めて。期待と不安がある。だからこそ望んでしまう清潔感、部屋の快適さ、眺め、音漏れ、施設、食事、スタッフのコミュニケーション能力、WiFiのスピード…」といった具合でお値段以上のかなり高いレベルを要求されます。

その多くは割とコミュニケーションでカバーできるものも多いのですが、英語や中国語ができるスタッフを配置しているから大丈夫というだけでは問題解決になりません。例えばホテル業には「できない」という言葉はないのですから彼らを説得するには文化ギャップを理解していないと言葉の空回りになるのです。多くの経営者は「そこまで望まれても…」ということでしょう。

訪日観光客は一時年間3000万人を超えたわけですが、コロナがなくてもそれが更に増え続け、維持できたかといえば壁に当たった気がします。それは泊ってよかったと評価される施設は限られていたからと思われるからです。金のないバックパッカーが屋根さえあればいいと言いながらコンビニで酒を買って「Great!」なんていうテレビ番組に影響を受け、それで外国人は満足すると勘違いした日本人は多いと思います。あんなものは偏向報道どころか100害だらけの誤認報道です。金を使わないバックパッカー宿は世界でどの街でもありますが、片隅の方に追いやられており、真の評価はやはりしっかりした施設から生まれるものです。

観光業は元に戻るか、という議論は当然あるのですが、私は元に戻すのではなく、この1年に及ぶ時間的ギャップの間に何を考え、コロナ後をどう再構築するかが最大の焦点だと考えています。もちろん、日々の経営でそんなこと考える余裕はないとおっしゃるかもしれませんが、攻めの経営とは忙しかったあの時を振り返り、観光のあり方を再度学び、同じような観光受け入れが正しいのか、検証してほしいのです。

土産一つにしても全国どこでも似たようなものばかり。お菓子、饅頭なんていうのは包装紙こそ違えども似たり寄ったりですが「おすそわけ」の発想からくる土産文化から自分が楽しむ旅行にシフトしていることにも気がついてほしいのです。日本の旅行文化と海外の旅行文化はまるで違います。カナダやアメリカでは海外旅行に行ってきたといっても誰もお菓子一かけらすらくれません。

旅行は量から質への時代に変わるのかと思っています。また1泊、2泊という短い週末旅行から時間をかけてゆっくり回ったりワーケーションや長期逗留といった今までにないパターンの客も増えてくると思います。豪華夕食が押し付けではないのかという疑問もあります。宿泊施設が客に満足してもらえるような十分な施しができるか、あらゆる要望にどう応えるのか思案のしどころではないでしょうか?

日本はパッケージ旅行がもともとのスタート。つまり、お仕着せ型が中心ですが、旅行は100人100様がそもそものスタイル。それをどう取り込んでいくかが私は観光業「復活」ではなく観光業「再生」への道だと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月20日の記事より転載させていただきました。