「養父の農業特区は失敗」として、利権勢力に加担する朝日新聞の大誤報

2021年01月21日 14:01

朝日新聞がとんでもない大誤報を出した。

mizoula/iStock

1月16日付の記事「企業の農地取得、23年夏まで延長へ 国家戦略特区の特例措置」では、養父市の農業特区(企業の農地所有の特例)に関して、以下の記載がある。

1)「農水省によると、(特例を活用した農地のうち)実際に農業を営んでいる面積は7%弱にとどまる」。

2)「農水省幹部は『特例で地域の農業が活性化したとは言えず、取得した後で農地の転売や耕作放棄をするケースもないとは言えない』と話す。」

これは全くの間違いだ。事実は以下の通り。

1)「実際に農業を営んでいる面積は99.1%(残る0.9%も農業再開見込)」。

2)「地域の農業が活性化」したことは、これまでの国家戦略特区の評価で確定している。また、耕作放棄などの問題があれば市が農地を買い戻す制度が設けられ、現実に問題は生じていない

(注)国家戦略特区諮問会議で毎年評価がなされているが、直近の2019年度評価では、「6件と多くの事業が実施され、様々な農業経営のモデルの確立が進められ、農業の6次産業化の促進や耕作放棄地の活用、地域経済の活性化に貢献」。

 

私も委員を務める国家戦略特区ワーキンググループで20日、朝日新聞への抗議文を送付・公開した。

 

これに対し、21日の朝日新聞朝刊21面で、こっそりと小さな訂正記事が出た。

こっそり出すのは訂正記事の常だが、問題は内容だ。

「(特区特例を活用した農地のうち)実際に農業を営んでいる面積は7%弱」は間違いで、正しくは「6社が農業を営んでいる面積のうち、特区特例を活用した農地が7%弱」という。

これは訂正になっていない。訂正するなら、「実際に農業を営んでいる面積は99.1%」のはずだ。記事ではもともと「実際に農業利用がどの程度なされているのか」を伝えようとしていたのだから、「7%は別の数字でした」では意味をなさない。

おそらく、こうした異常な訂正がなされたのは、朝日新聞にとって大事なのは「7%」という数字のほうだったからだ。つまり、記事の伝えたかったメッセージは、要するに「養父の農業特区は失敗した」。いかに失敗しているかを示すために「7%(=ほとんど使われていない)」に意味があり、何の数字かはどうでもよかった。そんな報道だったことが、この訂正もどきで図らずも露呈してしまった。

ちなみに、訂正後の「7%」は、「所有でなく、リースで借りている農地が多い」との意味だが、それは経営判断上当たり前のことで、これも何ら「養父の農業特区の失敗」を意味しない。12月の特区諮問会議でも議論済みだ。また、上記2)の「地域の農業が活性化したと言えない」などの記載も、事実に反するので訂正されなければならないことは言うまでもない。

朝日新聞はなぜ「養父の農業特区は失敗」と伝えたかったのか?

結論からいえば、「養父の農業特区は失敗」と宣伝工作したい勢力に利用されたのだと思う。

背景事情は朝日新聞記事でも報じられているとおりだが、「企業の農地所有の特例」(国家戦略特区制度のもと養父市で認められてきた)を全国に広げるかを巡り、12月の国家戦略特区諮問会議で、民間議員らと農水省が対立。総理が「預かる」という異例の状態になった。1月15日、当面は全国展開を先送りし、「21年度中にニーズと問題を全国で調査」して調整・検討、との方針が決定された。これに対し民間議員らが懸念を指摘しているのも報道のとおりだ。

「企業の農地所有の禁止」は岩盤規制の最難題のひとつだった。議論は長年なされたが、農水省や農業関係者が強く反対し、決して崩れなかった岩盤の象徴だ。いつも出てくる反対論が、「企業は儲け優先だから、うまくいかなければ、すぐ耕作放棄や産廃置き場にするに違いない」という企業性悪説だった。

これに対し、養父市の広瀬栄市長が、「企業や地域外の人たちにも協力してもらわなければ、もはや地域の農業が立ち行かない」との危機感から果敢にチャレンジした。国家戦略特区を活用し、「万一耕作放棄などが起きたら市が買い戻す」との仕組みを設けて反対論にも対処し、2016年に特例が認められた。

やってみたら大成功だ。例えば地域の製本業者が業務閑散期に農業を営むなど、さまざまな形で企業との協力モデルが生まれた。耕作放棄地は再生された。地元の若者などの雇用創出にもつながった。

KGalione/iStock

ところが、「成功した」ことが、反対勢力にとっては都合が悪い。特区の特例は「特段問題が生じなければ全国展開」が原則だからだ。全国展開まで進むことは何としても阻止したいので、「養父の農業特区は失敗」とのキャンペーンが展開された。

農水省が関係会議などに「農業特区は失敗」との虚偽説明を行った事例は、12月の特区諮問会議でも報告されている(政府の会議では異例なことだが)。今回の報道も「農業特区は失敗」キャンペーンの一つだったのだろう。

マスコミがこうした宣伝工作に利用される問題は深刻だ。

企業の農地所有の問題は、「農業に参入して利益をむさぼろうとする企業vs.農業を守ろうとする農水省・農業関係者」の図式でとらえられがちだ。だが、実はこうした一般的な認識自体、宣伝工作の成果ともいえる。現実には、養父で実証されているように、企業の協力で地域の農業再生の道が拓ける。

それにもかかわらず、農業関係者が長年反対してきたのはおそらく、企業の協力が拡大すれば、農協が個人農家に独占的に高い価格で農業機械や肥料などを提供する、従来の農協中心ビジネスモデルが転換を迫られるからだ。しかし、従来のビジネスモデルはどのみち限界に達しており、このままでは地域の農業衰退は止まらない。

だからこそ、本来この問題は、日本の農業を守るため、農水省が自ら取り組むべき局面だ。農水省は、日本の農業を守る組織なのか、旧来型農協など一部の利権を守る組織なのか、いま選択の分岐点に立っている。私は、これまで多くの農水官僚と議論してきたが、これからの時代を担う農水官僚たちはきっと、さまざまなしがらみを断ち切り、前者に舵を切ってくれると信じている。

そんな中で、朝日新聞が「利権を守る」側の宣伝工作に利用されたことは、あまりに情けない。誰のための報道機関なのか、自らの役割を見つめ直し、まず記事を「正しく」訂正して出直してほしい。

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政策工房 代表取締役社長

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