コロナ禍でも食文化を守る、フランスの取り組み

加納 雪乃

新型コロナウイルス感染が拡大する中、世界中の多くの国同様、フランスでも、飲食店の長期閉鎖という措置が取られている。そんな状況下でも、レストランガイドブック「ミシュラン」は、フランス版2021年を1月18日に発表。短い期間の中、調査員数を増やして集中的な審査をし、新3つ星1店、新2つ星2店、新1つ星54店を表彰。ミシュランガイドの国際ディレクターは、「飲食店が大変な時期だからこそ、彼らをしっかり評価することによって支援したい」とコメントした。

フランスにとって、食は大切な文化であり遺産だ。この価値観と誇りが、国と飲食店、消費者、そしてミシュランなど食に関連するすべての人々の意識をつなぎ、食文化という貴重な文化を守っている。

2020年3月中旬に発令されたロックダウンに伴い、飲食店も一斉閉鎖。この措置は6月まで続いた。要請ではなく命令だが、同時に国から充実した保証も出ており、従業員の給料85%保証を始め、支援金などの手当ても出た。

店頭にテイクアウトの料理メニューやワインを並べるレストラン。筆者撮影

とはいえ、もちろん売り上げは激減し、なによりも“料理をする”という情熱がつきない料理人。許可されたテイクアウト&デリバリー料理の販売や、医療従事者への無償料理提供などを早々にスタートさせた。テレビの料理番組で活躍するシェフは、一般家庭の厨房とスタジオをつないで生放送で料理教室を行う番組を始動。毎日放送されたこの番組は大人気。紹介されたレシピの材料が翌日のスーパーで売り切れる状況になった。取引先生産者を支援しようと、食材セットに、家でもできる簡単レシピをつけたキットを販売する料理人も。普段はレストランにしか卸さない高品質の食材が手に入る、と、こちらも高い支持を得た。

また、ミシュラン3つ星クラスのトップシェフが、SNSで簡単レシピを紹介したケースもあり、雲の上の存在的料理人を身近に感じられると好反響。店で食事をすればドリンク抜きの予算が100〜200ユーロの高級店が、3品19ユーロのカジュアルテイクアウトを提案したのも大成功。

「リッツ・パリ」のお菓子屋台で販売された、ピーチメルバ。筆者撮影

超高級ホテルのダイニングもお手頃価格の料理やアフタヌーンティーセットなどのテイクアウトを提案。

パリを代表するラグジュアリーホテル「リッツ・パリ」は、ホテル前にエレガントな屋台を出して、同ホテルのスターパティシエの菓子を手軽に楽しめるように。こちらも大きな話題となり、常時長い列ができた。これら高級店のカジュアル提案は、従来の富裕層顧客以外の興味を喚起し、将来的な顧客開拓にもつながりそうだ。

春の飲食店閉鎖は6月に解除。感染対策を施した上での通常営業となったが、10月に到来した第二波の影響で、11月末から再び営業禁止に。当初は、状況がよくなれば12月に再開予定だったのが1月下旬に延び、今や3月悪くすれば4月まで飲食店は閉まったままかもしれない、という状況だ。

春は突然の閉店を余儀なくされ、無我夢中で対応した店が多かったが、秋からの2度目の営業禁止は、夏の終わりからある程度予想されていたこと。前もって準備をしていた店も多く、ある意味スムーズに、テイクアウト&デリバリーに移行したと言えよう。

春に問題になった、テイクアウト料理用のプラスティック容器の大量消費を受け、今回は、紙など再生利用素材の容器を使うケースが増えたように感じる。また、煮込みやテリーヌなど、真空パックができる料理を増やし、包装自体を簡略化したり消費期限の長い料理を提供し、廃棄を減らす取り組みも目立つようになった。SNSを利用して、今日の料理を告知したり厨房での調理風景を見せるなどPRも充実。厳しい状況下だが、サスティナビリティを大切にした食の喜びを提供し続けている。

料理やデザートを入れる容器は紙製。筆者撮影


加納 雪乃
フリーランスライター。1998年からフランス在住。フランスの食文化、バレエを中心に、日本の雑誌に寄稿。
著書に「パリオペラ座バレエと街歩き」、「パリスイーツの話」。2012年“トロフェ・ドゥ・ラ・プレス”(ブルゴーニュワインジャーナリズム賞)受賞。