ギャンブルで負けた金を返せと要求する新電力(アーカイブ記事)

池田 信夫

秋本真利事務局長が収賄罪で逮捕されて休眠していた再エネ議連が動き出しました。今度は卸電力価格の値上がりで赤字になった新電力を救済しろという。彼らは同じような要求を3年前にも出し、大手電力に数百億円の損害賠償をさせました(2021年1月22日の記事の再掲)。

20倍以上になった卸電力価格

2020年末から電力需給が逼迫し、日本卸電力取引所(JEPX)の卸電力価格は200円/kWhを超えた。これは通常の20倍を超え、電力を買う新電力の経営危機が表面化した。これに対して経済産業省は1月15日、卸電力料金の上限を200円に制限した。

それでも足りない新電力56社が、電力を供給する大手電力会社が「想定外の利益」を返還せよという要望書を経産省に提出した。これは電力自由化を根本から否定するものだ。

今回の電力不足の原因は、10年に1度といわれる寒波による電力需要の増加と、LNG(液化天然ガス)の在庫不足だといわれるが、問題はそれだけではない。この冬は、昨年(2020年)4月の発送電分離の後の初めての冬なのだ。

電力自由化で発電会社と送電会社が分離され、多くの新電力が参入してきた。こういう会社の中には自前の発電設備(太陽光発電所など)をもつ業者もあるが、自前で設備をもたないでJEPXで仕入れた電力を売るリセール業者も多い。再エネ業者も、太陽の出ない時間や風のない時間には大手電力会社から電力を売ってもらう。

こういう業者にとっては「小売り料金-卸し売り料金」が利益になる。普段は小売りが15~20円で卸し売りが5~10円なので、新電力はその利鞘で利益が出せるが、これが逆になると赤字になる。これは誰でも知っている商売の当たり前のルールである。

ところが昨年末から起こった価格上昇は、予想を超えるものだった。12月上旬まで10円/kWh以下だった卸電力のスポット価格は、12月中旬から急上昇して今年初めに100円を超え、1月14日には最高値の221円をつけた。

JEPXシステムプライスの推移(円/kWh)

JEPXシステムプライスの推移(円/kWh)

これによって新電力は大幅な赤字になるので、払えない業者も出てくるが、それでも電力が止まることはない。大手電力会社は通常通り送電し、その料金を後から新電力に請求するインバランス料金という制度があるからだ。

これは後から新電力に請求して精算されるが、その料金はJEPXの価格に従って決まる。その支払い総額は6000億円から1兆円にのぼり、自前の設備をもっていない中小のリセール業者のほとんどが経営破綻するとみられる。

電力自由化が生み出したギャンブル

問題はそれだけではない。市場連動型料金を設定している新電力では、卸電力料金が電気代に転嫁されるのだ。たとえば自然電力の電気代は基本料金に「スポット価格×使用量」を加えて決まる。

これは一種のギャンブルである。普段は卸電力料金は小売り料金より安いので、電気代は10円/kWh以下だが、スポット価格が200円になると、1日20kWh消費する利用者の料金は4000円、1ヶ月の電気代は12万円以上になる。

経産省の料金規制は、このインバランス料金の上限を200円に制限して新電力を救済するものだ。実際の価格が200円を上回る場合は、発電業者がその差額を負担する。これはギャンブルで負けた人の損を勝った人に補填させるようなものである。

ところが新電力はこれでも足りず、1月18日にインバランス料金の返還を求める要望書を経産省に提出した。それによると

今回の燃料制約の原因検証・究明を経て、一般送配電事業者が想定外の利得を得ているものと認められる場合は、その利得の合理的な還元を求めます。特に、インバランス単価については、遡及的な見直し、または託送料金の減額等での合理的な還元を求めます。(強調は原文)

これは「今までルーレットで勝っていたが、今年の冬は負けが込んだので胴元が想定外の利得を返せ」と求めるようなものだ。ギャンブルのルールは最初からわかっていたのだから、損するのがいやならリスクをヘッジするか、ギャンブルに参加しなければよかったのだ。

再エネ偏重のエネルギー政策を転換せよ

電力自由化の直後には、こういう電力危機がよく発生する。2000年に米カリフォルニア州の自由化で起こった大停電が最悪のケースだ。2019年8月には米テキサス州で、卸電力のスポット価格が9ドルを超えた。これは900円を超える水準だが、その損失は補填されなかった。

電力会社はピーク時のために発電・送電設備に巨額の投資を行ない、1年の大部分は休止している。この投資を効率化することが電力自由化の目的なので、過少投資で不安定になるリスクは避けられないのだ。

新電力はそういう設備投資のコストを負担しないで、天気のいい日や風のある日に発電した電力を電力会社に買い取らせる固定価格買い取り(FIT)というゆがんだ制度で生み出されたフリーライダーである。「太陽光の電力単価が原発より安くなった」などという人がいるが、安くみえるのは再エネ業者が、そのバックアップの電源の設備コストを負担していないからだ。

日本では2011年に民主党政権が原発を止め、FITで再エネに巨額の補助金(2030年までに40兆円以上)を出し、東電が原発事故で政治力を失ったのを好機として経産省が電力自由化を強行した。電力自由化は悪いことではないが、日本の場合はこのような政治的バイアスがあったため、さまざまなひずみが生まれた。

その最大の問題が、今回のような供給の不安定性である。原発を止めたまま、石炭火力も「脱炭素」で削減したため、価格や供給の不安定なLNGへの依存度が上がり、調整機能を失った無責任体制ができてしまった。

それを補完するために、古い火力を温存するコストを新電力が負担する容量市場の導入が進められているが、新電力は反対している。今回の事件は、このようなゆがんだ電力自由化の必然的な帰結である。

今すぐやるべきなのは、供給力の強化である。原子力規制委員会が設置変更許可を出した柏崎刈羽など7基の原発を再稼働して供給力を安定させ、再エネ偏重のエネルギー政策を転換し、石炭も含めた安定電源を確保すべきだ。その障害になっている新電力を救済するのは論外である。

【追記】その後、このインバランス損失について経産省は大手電力に補填するよう「要望」を出し、東電だけで163億円の特別損失を計上した。