このブログでいわゆる著名創業者の話はよくさせて頂いています。では、創業者ではない方で凄腕を一人あげよ、と言われたら、現役の方に絞ると私は迷わず伊藤忠の岡藤正広会長ではないかと考えています。
伊藤忠と聞くと反射的に出てくるのが瀬島隆三と中国だと思います。瀬島の名前は今の若い方には無縁だと思いますが、元陸軍大本営でシベリア抑留後、伊藤忠に入社、その後、同社会長までつとめた同氏のことを書いた歴史書は数多いのですが、概ね良くは書いていません。山崎豊子の「不毛地帯」は山崎本人は否定しているものの瀬島をモデルというかイメージして作り上げた作品として著名です。
中国のイメージについては同社の社長会長を務めた丹羽宇一郎氏のことを引っ張っているのだろうと思います。ただ、丹羽氏が活躍したのは90年代から00年代で2010年には完全退任し、その後、中国に強みがあったことで菅直人首相(当時)の推しで民間人として中国の全権大使になりました。これが伊藤忠の中国イメージが強まった背景であります。
しかし、時を同じくして2010年に社長になった岡藤正広氏が伊藤忠を変えました。何がすごいのか、と言えば儲けることに特化しているという点です。2010年の純利は1281億円だったのが2020年は5013億円、2021年3月期の決算では2015年に続き再び大手商社トップの利益を確保すると見込まれています。
手腕を一言でいうと剛腕で多少の批判はものともせず、絶対にぶれない猪突猛進的なところがあります。例えば大変話題になった2019年のデサント買収は日本初の敵対的買収となりましたが、手中に収めました。岡藤氏が繊維畑であることもあり、強気一辺倒で自身の進退を賭けた戦いだったとされます。
また、子会社のファミリーマートをTOBで上場廃止にしましたがその買収価格はインパクトがない安いオファーだったと記憶しています。TOBは成立しています。募集に応じなかった海外ファンドが安すぎたTOB価格について訴訟を起こしたようですが、多分勝てないとみています。理由は周到な準備と訴訟があることを見越した対策を取っているからです。海外ファンドにとっては将来の布石という感じではないでしょうか?
つまり、岡藤氏のイメージとは儲けることに特化した日本最大の集金マシーンではないかと思うのです。では、私がなぜ、この岡藤氏を日本の代表的経営者の一人として考えているかと言えば「歌を忘れたカナリア」ならぬ「儲けることを忘れた日本企業」でここまでえげつなくお金に執着できるのはある意味、大したものと言わざるを得ないからです。
創業者や起業家のポジションは事業が花咲くことを夢見、お金は後からついてくるともいわれます。一方、岡藤氏は銭勘定第一。さすが大阪育ちであります。
ちなみに儲けを局限化する発想はミルトン・フリードマン博士の株主資本主義の教えともいえますが、今は公益資本主義で利益より社会貢献という立場が主軸になりつつあります。その点からすれば岡藤氏のスタンスは7-80年代の古い考え方ともいえそうですが、数ある経営者の中でこれぐらい突出する才能、センスを持つ方がいてもよいのではないかと思います。
ウォーレン・バフェット氏が日本の5大商社に投資をしたことが話題になりました。稼ぐ力と潜在能力があるとみていたわけです。その中で多くの商社は資源部門に傾注し、過去、手痛い思いをしてきました。資源は好不調の波が激しく、良いときには驚異的な利益を生み出すため、商社のリーダー的存在である三菱商事などが主力にしてきた悪い癖があります。岡藤氏はそのリスクを十分読み取り、バランスの良い収入構成にしている点もなかなか立派だと思います。
多分、このブログをお読みの方はあまり賛同しないかもしれませんが、私は経営者として稼ぐことは大事だと思っています。日本は清貧と言いますが、海外には強欲な経営者ばかりで弱肉強食の恐竜時代がずっと続いています。その中で草食系で協業と仲良しをモットーにするスタイルでは日本企業は世界では勝ちにくいでしょう。
これぐらいマネーに対してシビアにビジネスをされている岡藤氏はどんな外野の評価があったとしても代表的カリスマ経営者の一人であることは間違いないと思います。(一言お断りしておきますが、私が好きかどうかは別の問題であります。)
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月22日の記事より転載させていただきました。