日本でコロナワクチン開発ができない理由?

下記の図は、日本の医薬品輸出入額の推移を示している。

日本から海外への輸出額は増えているが、6年連続の医薬品貿易赤字2兆円超えである。21世紀に入って医薬品分野での競争力強化が叫ばれていたにも関わらず、輸入額3兆円が続く。

その象徴がコロナウイルスワクチンの海外依存である。日本企業でワクチン開発ができる企業は限られている。mRNAタイプのワクチンのように新規のアイデアを生かす仕組みも難しい。がんワクチンなど今でも目の敵にされている。そもそも、このブログで主張し続けているように、日本の評価システムに目利きがいないことが問題である。斬新的なことを評価できる能力のない人たちが、大きく伸びそうな芽を摘んでいる。今回のワクチン開発でも政治が介入し、どこまで開かれた評価がされたのか、かなり疑問である。

しかし、公平で公正な評価ができたとしても、問題はそれだけではない。ワクチンや抗体医薬を大量生産するには大掛かりな製造施設が必要である。それをバックアップする体制がないので、ベンチャーが頑張っても第3相試験などの経費はなかなかカバーできない。公的な研究費などは枠が決まっているので(必要な予算を計算して計画が進むのではなく、予算枠ありきでは難しい)、可能性があってもゴールまではたどり着けない。あるべき姿を見据えたしっかりした管理体制はないに等しい。

Bill Oxford/iStock

そして、22日の午後10時のニュース番組で、3月に3600万人の高齢者に注射すると紹介されていた。これは、どう考えても間違いではないかと思う。3週間をあけて2回の注射が必要なので、7200万回分となる。月をまたぐ人がいるのを考慮しても、1か月で5000万回以上となる。休日も注射するとしても1日約200万回弱となる。ひとりの医師・看護師が1日200人に接種しても(8時間と仮定すると1時間に30人)、毎日1万人の医師・看護師がこの対応をしなければならない。東京だけでも1000人の医師・看護師が必要だ。そして、ワクチンが承認されることは、日本人には100%安全であることを保証するものではない。もし、米国の報告と同じ頻度でアナフィラキシー症状が起こると、毎日20人前後がアナフィラキシー症状を呈する。これらに対する対応も考えられているのか?この数字でワクチン接種を実行することが現実的なのか?

米国ではバイデン大統領が100日で1億回のワクチン接種をすると紹介されていたが、これでも1日100万回だ。米国の人口は日本の3倍であることを考えると、日本の計画はかなり厳しいものがある。

日本のワクチン行政指示系統が一つ増えたが、現場が混乱しないのか?それも心配である。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。