本稿は、トランプ政権の実績をトランプ氏の人格と切り離して個別公平に評価すべき、感情と論理は分けるべきということ、米主要メディアの一方的な偏向、リベラルの画一性とその受け売りの日本の主要メディアの姿勢を批判する趣旨であり、トランプ氏支持自体が目的ではない。民意の尊重は当然で、バイデン氏を批判する意図もない。
トランプ政権の政策の客観的評価
トランプ氏の言動の乱暴さには、異論は少ないと思う。選挙結果受け入れ拒否は負けっぷりが悪く、支持者による議事堂乱入は当然、正当化しようがない。但し、それをもってトランプ政権の政策を全て否定することは科学的ではない。それどころか、トランプ氏は、アメリカにとって重要な課題に真正面から問題提起してきた。
トランプは、オバマ政権時代に進められたグローバリズム、格差拡大、その結果としての分断に反対し、エリート主義に反対し、アメリカ国民の生活と安全の向上を優先することを主張してきた。
トランプ政権の政策
- 経済:反グローバリズム。法人税を下げる一方、保護主義を採用し、企業がアメリカ国内に留まる事を促し、雇用を増やす。格差是正は目指しているが、結果の平等よりも機会の平等をより重視。魚ではなく釣竿を与える発想、自助を重視。インフラ投資を推進。数字上、総じて成果は出ている(コロナは考慮から外す)。失業率は歴史的低水準で、所得の中央値は上がっている。
- 治安と移民:現在国内に合法的に住居している人の福利と安全を重視。不法移民は、秩序を乱し、支出を増やすので反対。メキシコのカルテル等、犯罪組織、秩序破壊には、人種等に関わらず断固として対応。白人のみ批判する逆差別はしない。難民の話だがメルケルの失敗を考えると移民の制限が間違っているとはいえない(ケルン事件等)。
- 外交:国益主義、反国際協調主義。中国はアメリカの長期的な地政学上の脅威とみなし、厳しく対応。国益に無意味な外征は避け、一度も戦争を行わず、世界から米軍を撤退させる。一方、国防費を増加し、宇宙軍を創設し、強力な武装で安全を保障し、影響力を強化(アイゼンハワーに近い)。自国の行動の自由を縛る国際機関には非協力的。イスラエルとアラブ諸国との国交正常化。
- パリ協定離脱は、パリ協定が気温上昇に効果はなく、脱炭素自体意義がないという見解もあり、抽象的な道徳的な響きよりも、270万人の雇用を創出を優先するのは一つの選択だ。
これらの姿勢は、就任演説に明確に示されており、忘れられた人の為に戦うと、エリートに対して明確に宣戦布告しており、退任時のお別れ演説でもその姿勢は全く変わっていない。
上記それぞれに賛成/反対はあるだろうが、これらは少なくとも一つの明確な政策であり、トランプ氏の人格が悪だから全て悪と片づける話ではない。感情と論理は分け、政策は個別客観的に評価すべきだ。トランプ反トランプはどうでもいい。
トランプ氏の人格
ビジネスマンであり、現実主義者で、抽象的な道徳、偽善を嫌い、悪く言っても打算的であり、党派性はない。以前は民主党に寄付しており、改革党を経て、共和党から出馬し、主張も共和党の伝統的な主張とは大きく異なり、無党派と言える。個人的には、打算的なビジネスマンは、人種差別思想など無意味で下らないと思うものと考える。大統領選で勝つ為にもマイノリティ票を無視するはずはなく、黒人の為の政策も実行している。
もちろん、自己顕示欲が強く、特に言葉が無遠慮すぎ、無駄な摩擦を生んでいるのは大きな欠点だと思う。リベラルメディアに攻撃材料を与え、議論は政策より、人格評価に堕していった。トランプ政権の支持者も支持を表立って言いにくくなった。
但し、自己顕示欲が大統領への動機となったのではないと思う。もしそうならむしろメディアに迎合し、金持ちなのだから金持ち優遇するだろうが、実際は逆を行っている。エリートの偽善により大衆の利益が踏みにじられる事に対する激しい怒りが、何よりの大統領職への動機だったのではないだろうか。トランプ氏が起こす騒動は、大衆の為にエリートを無視する事から起こっている事が多い。
卓越した戦略眼、信念をもち、大胆、勇敢、不屈、正直であるとも言える。個人的には、振る舞いさえ穏当だったらと思う。よく言うとチャーチル、悪く言うとヒトラーに似ていると思う。
主要メディアの偏向
トランプ政権の政策が全て絶対悪ではなく、むしろ重要な問題提起をしている。完全な悪人、人格破綻者とも言えない。にもかかわらず、米主要メディアの報道は、政策自体の評価ではなく、トランプ氏の人格は悪であり、その政策は全て悪、支持者は変人、といった偏向した姿勢が目立つ。トランプ氏は常に否定的に報道される。これ故に特にトランプ支持者は益々メディアを信頼しなくなり、分断を深めている。アメリカではメディアは信頼されていない。主要メディアが描くアメリカは実際と異なり、アメリカ人はもっと多様で現実的だ。
この他リベラルメディアは寛容と多様性を謳いつつ、自らの見解が絶対正義として他の存在を認めない不寛容さがあり、一方的な正義で断罪する傾向がある。また感情と論理を分離できていない。メディアの論調は、全てではないにしろ、客観的ではなく、確信犯の政争、批判を避ける保身、論調を真に受ける間抜け、単なる感情論のいずれかであることが多い。
日本の報道、特にテレビも、総じてトランプ氏に対して否定的に報じるが、これは党派性というより、アメリカ主要メディアの偏向を妄信する権威主義、責任回避の保身の為と思われる。しかし、まず報道の役割は、偏向した見解の提示ではなく、視聴者の判断の為に客観的な情報を提供する事であり、トランプ氏の人格は日本の国益には無関係で、日本の国益を軸に感情と論理を分けてドライに報じるべきだと思う。中国は国益で判断するだろうし、台湾は当然トランプ氏支持だ。但し、メディア、と一律に論じる事は公平ではなく探すと多様な報道はあり、受動的、無批判な国民にも課題はある。
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新井 将晃(あらい まさあき)システムコンサルタント
1975年、埼玉県生まれ。上智大学法学部卒。外資系IT企業に勤務し、システム導入を支援。外資系企業勤務の経験を活かし、政治、経済等について、ブロク執筆中。