教育やスポーツ界での「男女平等」をどう進める?

牧野 佐千子

国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」は25日、「日本の教育機関における男女平等の推進に関する記者会見」と題したオンライン形式の記者会見を行い、アメリカ・フォーダム大学ロースクール(ニューヨーク市)等と共同作成した日本の教育機関のジェンダー平等についての調査結果を発表した。(報告書はHRNのWebページで見ることができる)

HRNは、教育分野でのジェンダー平等について定めたアメリカの「タイトルナイン」法を用いながら、「日本の教育機関における男女平等を推進し、性差別に対処するため」として、文科省に対しタイトルナイン同様の法律を定めることを勧告している。

タイトルナイン法は、アメリカの公的高等教育機関における男女の機会均等を定めた連邦法の修正法。教育改正法第9編とも訳される。1972年6月に成立したもので、条文には「合衆国のいかなる者も、連邦政府から助成を受けている教育プログラムや教育活動において、性別を理由に参加を拒まれたり、利益の享受を否定されたり、差別の対象となったりすることがあってはならない」と明記されている。

HRN理事で弁護士の伊藤和子氏ははじめに、「医学部入試の女子受験生の得点操作問題などがあり、学校の中でのジェンダー平等は今ますます注目を集めている。日米間の格差があり、アメリカでは『タイトルナイン』という法律で、教育分野での男女平等が推進されてきた。日本でも明確に定める法律が必要ではないか」と訴えた。

LightFieldStudios/iStock

国士舘大学の⽥原 淳子教授は、日本の体育・スポーツ界での性差別の現状について発表。性差別の対策は、「機会均等、男女平等について」と「性暴力、セクシャルハラスメント」の2つに分かれるとした。

スポーツクラブや運動部への加入率が、女子は男子よりも10ポイント以上少ないことや、保健体育の教員の男性比率が高いことなどをあげ、「女子児童・生徒がスポーツをする環境が整っているのか検証してみる必要がある」と問題を提起した。

また、プロスポーツ団体でも組織の役員の女性比率が低く、選手を含む女性の声が組織に反映されにくい状況にあり、男性によるセクハラなどの問題が発生した時に、もみ消されてしまうケースもあるとした。また、性的な意図をもって、女性アスリートの盗撮や、卑猥な言葉とともにSNSに写真を投稿するなどの行為も、女性アスリートが競技に集中できない要員として問題となっていることなどをあげ、性差別に相当する現状が多数存在するとした。

田原教授は、「タイトルナイン法を制定することで意識を高めて、性暴力やセクシャルハラスメントを撲滅する社会になるように祈っている」とまとめた。

続いて、医学部の入試で女子受験生の得点操作が行われていた「差別入試事件」で、受験生側の損害賠償訴訟を担当している弁護士の中山順子氏は、順天堂大、東京医大、聖マリアンナ医科大を被告として提訴されている損害賠償訴訟について、その内容や経緯を解説。

医学部の受験において、女子受験生の得点が低く操作されていたのは、「女性には妊娠や出産というイベントがあり、大事なポジションにつく前にやめてしまう。男性のほうが好ましい」「財政基盤を確実にして、男性に長く大学を支えてもらいたい」という意図があったのではないか、と解説。また、女性医師の診療科目には偏りがあり、「女性医師を増やすと医療崩壊するのではないか」といった懸念や、週当たり60時間以上の長時間労働に、これまで男性医師が耐えてきたが女性医師は耐えられないと考えられていることなどを挙げた。

中山氏は、「長時間労働だから男性のほうが良いというのは、長時間労働をよしとする社会が前提。そのような社会の認識を是正する発想の転換が必要。また、結婚、出産、子育てといったライフイベントは女性だけの問題なのか。大学側がそうした差別に対処できるよう、適切な指導ができる体制を整えることが大事。タイトルナインの制定で改善されることを望む」と訴えた。