選手の管理は参加国の責任に
橋本五輪担当相がコロナ対策で「必要な医療従事者(医師、看護士)は1人5日間の勤務をお願いすることを前提に、1万人程度に依頼する」と、発言しました。不用意な発言です。
五輪担当相なら「来日する参加国には、医師団の派遣を義務付け、自国の選手らのコロナ管理に責任を持ってもらう。日本は日本のことで精一杯だ」くらいのことをいうべきです。当然、ワクチン接種義務も要求する。
「医療崩壊状態」を叫んできた日本医師会、東京医師会は「日本側が面倒をみる余裕はとてもない。外国の選手団はそれぞれの国の責任で管理すべきだ」と声を上げ、声明でも出したらいいのです。
さらに問題なのは、参加国に対し「予定通り選手団を派遣するのか否か。選手団の人数を減らす予定はあるのかないのか」を、IOCも五輪組織委も調査しているのかどうかが分からないことです。最も肝心な点です。
参加国が当初の206か国でなく、かりに100か国まで減るようでは、「世界最大のスポーツの祭典」とはいえない。半減ならもちろん、五輪を開催する意義もない。半減以下か以上かを、調査する必要があります。
最近、各国のメディアが「東京五輪は実現不能」との情報をしきりと流しています。恐らく各国政府、組織委が口に出せないから、メディアに書かせていると、解釈できるでしょう。
参加国数、参加人数のような事前調査はメディアができるはずです。それをしないのは、テレビ、新聞などが五輪の協賛企業になっているためです。巨額の広告・CM収入をあてこんでおり、積極的でないのです。
誤解ないよう申し上げておきますと、私は東京五輪の中止を早期に決定すべきだと考えます。どうしても開催を強行するなら、医師団の派遣義務などで強い態度で臨み、国民に不安を与えないようにすべきです。
世論調査では、国民の7,8割が中止・延期論です。五輪は開催国の国民、市民に歓迎する気持ちがあってこそ開く値打ちがある。「コロナに打ち勝った証として開催」(菅首相)などというから、引っ込みがつかなくなる。
「外国からウイルスが持ち込まれたら、また感染拡大する可能性がある。それが変異ウイルスだったらどうするのか」が、平均的な国民感情です。国民が望む優先順位は五輪開催より、コロナ対策が上です。
まだ国内で感染拡大が続いていたら、医療従事者を五輪関係に割ける余裕はない。医療従事者を地方から集めるのは大変ですから、首都圏が中心になるでしょう。その首都圏がもっとも感染状況が深刻なのです。
医療従事者には「原則、無償で活動してもらう。大会組織委員会には財政的なゆとりがない」と、武藤事務総長が昨年末、発言していました。不眠不休で治療にあたってきた人を無償で使うとは、信じられない。
無償なら「医師らの自由意志による協力」にならざるを得ません。それで「1万人」を集めることはできるのか。結局、公立医療機関に強制的に割り当てるのでしょうか。国民の扱いは二の次となります。
幸いにして、夏場に感染拡大が収束に向かっているかもしれません。その場合でも、海外が問題です。世界の感染者数は1億人を超え、死者は220万人です。当初予定では、200か国から1万人以上の参加者でした。
参加国には、感染が収束していない国も多いでしょう。7月には、感染拡大しやすい冬を迎える中南米、アフリカは選手を派遣できるのでしょうか。最大の利害関係国のアメリカの出方が鍵を握っています。
「観客なしの国際スポーツ競技会にすぎない」などといわれるくらいなら、中止がいい。五輪は4年に一回は開ける。死者が300万人に達しかねないコロナ危機は50年に一回です。どちらを優先すべきか明白でしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。