株式市場の宴

この1週間、北米の多くの投資家はある一つの銘柄の動向について耳にしないことはないでしょう。その銘柄はゲームストップ(GME)であります。1月12日はまだ20ドルを下回っていた株価。業績はずっと赤字。アナリストのターゲットは12ドル程度。この株が突然暴騰を開始、1月22日に50ドルを超えたあたりから狂い咲きし、26日は9割以上上げ、本日27日は朝方に一時前日比2倍以上となり380ドルまでつけました。(終値は347ドル)リアルタイムで見ているとものの10分で10%ぐらい上がっていくのです。正気の沙汰ではありません。

(gamestop.comから:編集部)

(gamestop.comから:編集部)

誰が買っているのか、と言えば個人投資家であります。アナリストが12ドルが適正と言い、赤字が続き、特段材料がないこの株を買い上げている原動力の一つにredditという一種の掲示板があります。redditそのものは広範囲な分野のトピックスをカバーしていますが、そこのwallstreetbetsに行くと株式市場の話題銘柄についてのやり取りが激しく行われています。そしてこのゲームストップについての様々なつぶやきも上がっています。また、このような乱舞をしているのは同社株だけではなく、他にもいくつかあります。

では何処からこのマネーが廻ってきているのでしょうか?個人的にはビットコイン相場などで当てた人たちが手当たり次第に面白そうなところを狙っているという感じでしょうか?そのビットコインは42000ドルを付けた後、今日は一時30000ドルを割る水準となっていますが、多分、またこの循環マネーはビットコインに再び戻ってくる気がします。

この現象について今までは「馬鹿な個人投資達が…」とほくそ笑んでいた機関投資家やプロの投資家、ファンドマネージャーにとって新説の登場に「んっ」となっているかもしれません。それは「資金運用の民主化」(スカイブリッジキャピタルのスカラムッチ氏)という考え方であります。

今までは相場はプロによる多額の資金力、情報力、そしてあらゆるツールを駆使した判断力によって支配されていたといってよいでしょう。「相場は機関投資家が作るものである、個人投資家は黙ってそれについてくるがよい」というスタンスでありました。ところが個人が力を合わせれば機関投資家を潰すこともできるのだ、という戦いであります。事実、ゲームストップ株ではプロは空売りを仕掛けていましたがどうにもならず、大やけどの状態で買戻しをしているのが現状です。

ビットコインの暴騰は多くのプロの投資家にとって理解をするのに時間を要しました。ではSPACはどうでしょうか?今般ソフトバンクの孫氏も触手を伸ばしたやり方で、何の事業もしていない空箱企業を上場させ、適当な未上場の会社を見つけ、空箱に移して上場企業にしてしまうというやり方です。これは一般的なIPOの厳しい審査がなく、その買収された企業が本当に正しいことをしているのか判断する材料は大いに欠けます。実際、孫氏もWeWorkの買収で苦戦したはずですが、自ら更にそこに突っ込んで行こうとしています。

これを投資のニューノーマルと言わずしてなんと申し上げればよいのでしょうか?この「超イージーマネー」に酔いしれた投資家はもはや、GAFAM投資なんて面白くもなんともないのです。昨日好決算を発表、アフターアワーで4%ぐらい上昇していたマイクロソフト社も0.25%程度の上昇で終わりました。長期間投資をしていたテスラが2倍になって喜んでいる場合ではないのです。

これは株式投資だけではなくあらゆることに共通するのですが、より強い刺激を求めるし好の問題であります。そしてほんの1-2時間で稼ぎを上げれば時給10数ドルで誰が仕事をしたくなるでしょうか?ここに今のアメリカの巣ごもり問題があります。株式市場全体はバブルではないのですが、一部の個人投資家があちらこちらの銘柄を食い散らかしていると申し上げたらよいでしょうか?

かつて、日本の株式市場では「全員参加型のアゲアゲ株」などともてはやされた銘柄を時々散見していましたが、最近はめっきり少なくなったのは新興銘柄などそもそも浮動株が少ないところにちょっと買いが入るだけで上っていたからでしょう。今、あえて全員参加型になっているのは東京電力株でこれは見ものです。アナリストの評価は低いのですが、電力ひっ迫、700社ある新電力会社のギブアップ近しなどで囃されているものの思います。小型銘柄を別にすると一日7000万株ペースで推移しているのは久々ではないかと思います。

狂ったアメリカの個人投資家の行方はどうなるのでしょうか?仮にうまく売り抜けて儲けたとしてもそれが身銭になるのか、そして勤労をないがしろにしてはいないか心配です。ひいてはアメリカの覇権が本当に維持できなくなるのではないでしょうか?私がバイデン氏の政策を評価していないのは八方美人であり、アメリカの本来あるべき顔を歪めつつある点であります。アメリカが小粒化していくような感すらあります。ゲームストップの株をはやるアメリカ人に言いたいです、ゲームをストップしなさいと。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月28日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。