広島県は大規模PCR検査の予算10億をワクチン体制確立に投ずるべき!

椋木 太一

こんにちは、広島市議会議員(安佐南区、自由民主党)・むくぎ太一(椋木太一)です。

広島県による、広島市民ら最大80万人対象の「大規模PCR検査」について、アゴラにおいて、「大規模PCR検査の感染抑止効果への疑念」や「医療崩壊の危険性」、「方針決定プロセスの不透明」といった観点から、これまで2度にわたり問題提起をしてきました。(参照「広島が大規模PCR検査実施へ:”世田谷モデル”の失敗を繰り返してしまうのか」、「大義名分なき広島の大規模PCR検査、知事は説明責任を果たせ」)

広島県の湯崎英彦知事(広島県サイトより)

湯崎英彦知事が1月14日に突如、「大規模PCR検査」の方針を明らかにして以降、私は終始一貫、疑義を唱えてきたわけですが、ここにきて、広島の地元メディアのみならず、私の古巣である読売新聞といった全国紙でも、左右の立ち位置を問わず、「大規模PCR検査」の実効性や広島市の医療体制にもたらす影響などについて懐疑的な論調が目立ってきています(参考 陽性急増なら大混乱も…広島市80万人にPCR方針 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)) 

そのような空気感の中、広島県がこの大規模PCR検査の費用として、今年度補正予算案に10億円計上する予定であることが明らかになりました。そして、この補正予算案を審議するため、2月3、4日に広島県議会の臨時会が開かれることも決まりました。広島市民、県民、メディアも含めて、この大規模PCR検査に対してはかなり冷ややかに見ています。ここは、広島県議会の矜持、良識をしっかりと示していただきたいと思います。

広島県は、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の「唯一の方法」(湯崎知事)として、この大規模PCR検査を持ち出してきました。ただ反対するだけでは、国の野党と何ら変わりありません。そこで、対案を示したいと思うわけですが、計上予定の10億円については、2月下旬にも始まるワクチン接種の体制確立に向けて投入するよう方針を転換すれば、広島市民や県民の合意を図りやすいと思います。

Bill Oxford/iStock

国をはじめ、広島市も含めてワクチン接種の準備を着々と進めています。広島市は、1月18日にワクチン接種担当チームを編成しました。現在、接種会場の確保や会場のレイアウト設計、人員の配置計画立案、接種対象者に配るクーポン券の印刷、発送に向けた下準備などに追われています。

何しろ、これほど大規模なワクチン接種はどの自治体でも初めてと言えますし、決まったやり方がなく、まさに手探りの状態で日々、業務を進めています。広島市の場合、65歳以上の高齢者は30万人、その他16歳以上の対象者は70万人程度が見込まれています。今回のワクチン接種はあくまで任意ですので、このうちどの程度、ワクチン接種を希望する市民が出るか見通しにくく、会場確保一つとってもどれだけの数が必要なのか、また、一会場あたりの収容数はどの程度が求められるのかーーなど、詰めていかなくてはならないことが盛りだくさんとなります。

広島県による「大規模PCR検査」は2月中旬から1~2か月間を見込んでおり、まさに、ワクチン接種の業務が本格化する時期と重なっています。広島市では今のところ、「大規模PCR検査」とワクチン接種の業務を兼務しない体制となっていますが、「大規模PCR検査」を行うことによって、ワクチン接種に対応する部署への人員増強はしにくいことにはなります。

大規模PCR検査とワクチン接種を比較した際、どちらが感染拡大抑止に効果的なのかは、言うまでもありません。限られた人材、医療資源、費用をどこにどれだけ配分するかということは、政治や行政の最大の任務の一つです。今、これらの資源を集中的に投入すべき施策は、ワクチン接種体制の確立に向けることなのです。ワクチン接種に関して、県と市町村の関係性は、県が<司令塔><市町村の支援>、市町村は<実行部隊>といったイメージになっています。ワクチン接種体制の確立を支援できる立場にある広島県だからこそ、「大規模PCR検査」に向けようとしているムダな予算を、ワクチン接種に投入するよう、方針転換を提案したいのです。

もう一つの提案は、高齢者や基礎疾患を抱える方たちへの重点支援に向けることです。広島県は1月26日に新型コロナウイルスの死者の分析を発表しました。これによりますと、1月20日までに確認された県内死者77人のうち、96%(74人)が60歳以上ということでした。さらに細かく分けますと、60歳代は13人(16.8%)、70歳代が16人(20.7%)、80歳代が最多の33人(42.8%)、90歳以上は15人(19.4%)です。また、77人のうち、基礎疾患を抱えていた人は69人(89.6%)に上りました。これらのデータから、重症化や死亡のリスクが高い高齢者や基礎疾患を抱えている方へのケアに集中して資源を投入するべきであるということを示していると思います。

何度も申しますが、無症状の市民らにPCR検査を行うことは、検査の性質(検査時のウイルスの曝露が分かるだけのもの)や新型コロナウイルスの法的な位置づけ(「指定感染症」であるため、陽性反応者は入院・隔離が必要になる)などにより、感染拡大防止の手段として実効性、費用対効果から適していないということです。

10億円という巨額の公金を投入するということから、実効性・費用対効果は必ず求められます。一度決めたことを変更することは勇気のいることかもしれません。ただ、その決断を支持する人が多いのが、広島の現状なのです。