「最終的には生活保護」発言の菅首相は、役所の「水際作戦」を知っているのか

中田 智之

27日の参議院予算委員会で菅義偉首相は、「政府には最終的には生活保護という仕組みも。しっかりセーフティネットを作っていくことが大事だ」と発言しました。

参院予算委員会で答弁する菅首相(1月27日、参議院インターネ中継より)

これは今まさに各地方自治体で行われている、生活保護申請を諦めさせる「水際作戦」をご存知の上でのことでしょうか。ここに問題意識をもち、「しっかりセーフティネットを作っていく」ために、制度改正や水際対策の禁止などに取り組むという意図であれば良いのですが。

(参考)菅首相「最終的には生活保護ある」コロナでの困窮問われ:朝日新聞デジタル (asahi.com)

(参考)知っていますか?生活保護のこと - 日本弁護士連合会

水際作戦とは日本弁護士連合会も説明する通り、生活保護「申請」に来た生活困窮者に対して、申請窓口とは別室に案内して「相談」パンフレットを渡し、制度を説明する体裁で「それでは申請は難しい」などと評して、申請を諦めさせる役所のやり方のことです。

私が取材した佐藤未悠さんは、これまで2度生活保護を受けたことがありますが、役所はいつも、そのような対応から始まったと言います。困窮し家に転がり込んできた友達の生活保護申請が独力では難しいだろうと考えた佐藤さんは、役所に同行することに。そのやりとりの一部が、ツイッターに投稿されました。

動画の中では、困って転がり込んできた友達は佐藤さんと「同居している」と判断されるため申請は難しいと職員が「相談にのって」います。困った友達に軒先を貸してあげたら申請は難しい、「拾った」のだから後の面倒も見ろ、というのは一体どういうことでしょうか。友達に対するほんの少しの優しさは、仇になってしまうとも解釈できますが。

生活困窮者は精神的にも弱っており、思考力や判断力が低下しがちです。もともとコミュニケーションが難しい方や、相手の発言に影響されやすい繊細な方もおられるでしょう。その中にあって受給に至るために法的知識が要求されるのは、酷なことではないでしょうか。

この様な水際作戦が日常的に行われる中、運よく弁護士や佐藤さんのような「事情通」の支援が受けられれば生活保護受給にこぎつけられますが、そのまま諦めてしまうケースも数多くあると思います。さらには、支援と称した詐欺にあうリスクもあります。

佐藤さんは「無事申請は受理されたが、(申請は難しいという立場から)ひっくり返った理由がわからない。職員のさじ加減一つで受給できたり出来なかったりするものに、最後のセーフティーネットなんて怖くて任せられない」と話します。

困窮者の支援というと左派・リベラル的で、私の常日頃の自由主義・リバタリアン的なスタンスとは無縁だろうと思われがちですが、そうではありません。市場における競争を重視する以上、自分も含めてだれもがいつでも困窮者になり得ると考え、「しっかりしたセーフティネットを作って」いくことに前向きです。

ベーシックインカムやユニバーサルクレジットは元々「小さな政府」論者から生まれたもの。これらは「水際対策」による担当職員の個人的判断に任されることなく、誰もがアクセス可能なセーフティネットであるべきです。長く続く「生存権」を守る制度も、再構築が急がれます。

(関連)生活保護に「陥る」は誤りだが、制度改善が必要。今こそベーシックインカムの議論を始めよう | 音喜多駿 公式サイト (otokitashun.com)

(参考)日本の社会保障、どこが世界的潮流と違うのか | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)