米軍基地協力費を「思いやり」と呼び続ける政府とメディアの鈍感さ

メディアの言語感覚に失望

在日駐留米軍経費の日本側負担を「米国に対する思いやり予算」と、日本は40年間も言い続けてきました。「思いやり」という表現は認識を間違っているし、米国に誤ったシグナルを送りかねません。

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深い考えもなく、前例踏襲で誤用を続けているうちに、報道するメディアも政府も疑問を持たなくなってしまった。菅首相は「前例踏襲」の打破を掲げていますから、「思いやり予算」はもう死語にしましょう。

安全保障政策を「思いやり」という感覚で表現することに私は違和感を覚え、何度か批判してきました。最近また新聞ほぼ全紙、NHKも「思いやり予算」という表現を使っています。言語感覚が鈍感です。

防衛省や財務省が「思いやり予算」と、説明しているのでしょう。それにメディアも追随し、惰性で誤った表現を使い続けている。緊張が増す国際環境の中で、安全保障政策や基地問題をどう考えるかという次元に、「思いやり」などという情緒的な表現を持ち込んではなりません。

「日本政府は在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を巡り、1年分の暫定予算を組む案をバイデン政権に提示した。思いやり予算は5年ごとに結ぶ特別協定基づいて決めてきた。現行の協定は3月で切れる」(日経、1/31日)が一例です。

バイデン政権は発足間もないので、とりあえず1年分だけ決めることにしたのです。金額は前年度並みの約2000億円です。トランプ前大統領が欧州、日韓などに米軍駐留費の大幅増額を迫り、日本には「4倍の8000億円程度」求めていると、伝えられていたのはこの問題です。

朝日新聞は「3月に期限切れとなる米軍駐留経費(HNS、思いやり予算)を巡り、当面、一年延長し、年内に改めて本格交渉をする」です。「HNS」は「Host Nation Support」の略語で、米側が使っている表現です。「支援受け入れ国負担、あるいは接受国の支援協力」という意味です。

40年前、米国が国防予算の確保に苦しんでいるのをみて、アバウトな金丸防衛庁長官が不用意に「思いやりの立場で対処しよう」と発言したのが「思いやり予算」という造語の始まりです。米軍基地で働く日本人従業員の給与を日本側が負担するようになりました。

対米協力は、基地職員の労務費、基地の光熱費、施設建設費などと拡充され、近年では年間2000億円ほどになっています。その他、基地周辺対策費、提供普通財産借り上げ費などを含めると、米軍駐留関係費は6000億円ほどです。さらに米軍再編関係費などを加えると、7、8000億円になります。

トランプ氏は狭義の対米協力費2000億円だけしかないと錯覚し、「8000億円程度まで増額させるべきだ」と、要求したかったのでしょう。広義の対米協力費は7,8000億円で、すでにトランプ氏の要求を満たしています。

在日米軍には「米国の戦略的根拠地を日本が提供」「安保条約に沿って基地を置いている日本を防衛」の二重の意味があります。「日本守ってやっているのだから、もっとカネを出せ」は勘違いなのです。

勘違いにしても、米側の対日感情は「日米安保条約で日本を守ってあげている」でしょう。「思いやりを持って接しているのは米国のほうだ」という状況の中で、日本側が「米国に思いやりをもっている」と言い続けていると、誤解を生む。

在日米軍基地に対する日本側の費用負担を「思いやり」と呼ぶ根拠はどこにも見当たらない。金丸氏の不用意な発言で始まった「思いやり予算」は禁句にし、「在日米軍駐留経費負担」と表記すればいいのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。