フルーツの売価を破壊するコロナ:さらなる苦境に追いやられる日本の生産者たち

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

新型コロナの感染拡大によって、冬場の高級フルーツの生産者たちが苦境に追いやられている。

筆者は高級フルーツギフトのビジネスを経営していることから、この惨状について直接フルーツの生産者たちから話を聞いてきた。今、日本の農家たちが、新型コロナがによって打ちのめされている。あらゆる産業に打撃を与えている感染症だが、なぜ、農家が極めて苦しい状況に追いやられているのかをお伝えしたい。

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ホテルやレストランが崩れ、フルーツの需要が減った

新型コロナの感染拡大により、旅館や高級ホテルなどの稼働率低下が著しい。

筆者は昨年、新型コロナの感染危機が一時的に和らいだタイミングで出張で東京へ向かった。ビジネスを終え、つかの間の休息として都内のホテルレストランで夕食を楽しんだが、その際はホテルの名物である「高級食材食べ放題ビュッフェ」が縮小していたことに気づいた。並べられている料理は大幅に減少しており、すべての食材にラップがかけられていたことに気づいた。このホテルやレストランはそこそこ値が張るサービスにも関わらず、予約をするのに骨を折る大人気サービスだった。しかし、当日の利用者は筆者ともう1組だけだった。

この時、ホテルレストランで起きていた異変の余波が、よもや農家を完膚なきまでに打ちのめしていたことは知る由もなかった。今年に入り、新型コロナの感染拡大危機により、再び非常事態宣言のシグナルが赤色に点灯した。一時期、活況だったGoToトラベルキャンペーンも止まり、飲食や宿泊業にとってはまさしく青天の霹靂というべき、強烈なブレーキがかかってしまった格好だ。

それにより、高級ホテルやレストラン、旅館や飲食店に出していた高級フルーツの需要が急落した。刺し身や焼き魚に添えるスダチの他、高級フルーツの代名詞であるマスクメロンなどのニーズが突然に潰えてしまったのである。もちろん、すべてがそうだとは言わない。ありがたいことに、高級フルーツを通販する小売業の筆者の会社は特段、大きな売上減はない。だが、宿泊業や飲食業へ出荷していたフルーツの行き場は失われてしまった。この空いた穴を塞ぐようなニーズはないままだ。

もう、冬場に国産メロンが食べられなくなる未来がやってくる

毎日新聞では、フルーツ値崩れの惨状を次のように訴えている。

料亭などに卸す「赤秀(あかしゅう)」と呼ばれる規格の下落が特に顕著という。濃い緑色の果皮に色むらもない赤秀は、1年前の2019年4月20日には1キロあたり2041円だったが、今年4月20日には同761円に。さらに飲食店の休業や営業短縮が広がった5月には、650円を割り込んだ。色むらや果皮に傷のある規格の価格は前年比約5割で、高級品ほど値崩れしている。(毎日新聞:新型コロナ 地域ブランドピンチ コロナで値崩れ)

これまで、いつの時代も一定数の高級フルーツの需要は変わらなかった。そんな状況が、新型コロナの感染危機により覆されようとしている。

この時期、生産現場ではフルーツの栽培はコスト高になる。夏場と異なり、ハウス栽培の燃料コストをかけながら暖房を入れることで、経費は大きく高騰する。それでも、生産者と流通量が減少する市場メカニズムによって、売価が高まることにより、生産コストの高騰が報われるという構造を維持できていた。

だが、買い手がなくなり値崩れを起こすことで、売価を高くして売上を出す算段が崩壊する。生鮮食品であるフルーツは製造品と異なり、長期保存はできない。人間界の事情を無視して、ただただいつもどおり健気に花をつけ、果実を太らせる。身を粉にして働き、外は雪の降る中でコストをかけて育てたフルーツが、通常期の数分の1でしか売れない生産現場の惨状はまさしく「生き地獄」のように感じているはずだ。

この状況が続けば、冬場にコスト高でメロンなどを生産しようとする人は減るのは明白だ。そうなれば、ホテルやレストランでフルーツの提供がなくなるだけでなく、ケーキなどの加工品に載せられるフルーツも海外産に埋め尽くされてしまうだろう。

ただでさえ、フルーツの生産現場は高齢化と後継者不足の問題に瀕した。ITや製造業と異なり、生産技術やノウハウは特許やナレッジシェアリングはなされておらず、フルーツの生産ノウハウやスキルは、すべて生産者の頭の中だ。そのため、一度生産技術が失われてしまえば、それが戻ってくることはない。

日本の食卓から、ますます国産フルーツが消えていく惨状を想像し、暗澹たる気持ちになる。

窃盗にも苦しむ生産者

新型コロナがフルーツ生産者にもたらした厄災はこれに留まらない。

筆者は昨年11月8日放送のテレビ朝日「たけしのTVタックル」という番組に出演し、そこでフルーツが盗まれフリマアプリで出品、売りさばかれている惨状を訴えた。

▲番組でフルーツの窃盗事件についてコメントをする筆者

コロナ禍で経済的な危機に落とされ、追い詰められた人たちが畑に実るフルーツに手をかけているのだ。これには生産現場もたまらない。

現在、日本のフルーツにおける未来は、未曾有の事態に立たされていると言えよう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。