菅総理がやっと変わった

昨日、2月2日(火)菅総理が緊急事態宣言の延長を発表する記者会見を行いました。

1月7日に緊急事態宣言が発出され、多くの方の感染対策や不要不急の外出の自粛などの行動により、新規感染者数は一定程度減少するなど効果が見られました。一方で、引き続き医療提供体制のひっ迫する中で、1か月の宣言延長となりました。

(令和3年2月2日、新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見 首相官邸HPから)

僕も、今の状況の中で延長はやむを得ないと思います。

ロックダウンなどの厳しい措置を取らずに、企業や住民に協力を求めるやり方で日本はやってきて、少し時間はかかるが効果をあげ、昨年の緊急事態宣言もなんとか乗り越えてやってきた。

もちろん、医療提供体制の確保、検査、ワクチン、そして飲食店などの時短営業などによる経営や雇用への影響の大きい人たちに対する補償や、困難を抱える方々への支援の拡充も非常に重要です。ただ、問題の解決のためにはやはり感染者数を減らさなくてはなりません。

つまり、あらゆる立場の人に不都合がない状態はつくれないという構図になっています。どこかの立場の人たちが頑張れば、自分たちは普段通りの生活ができるということにはならないわけです。

みんな困難や不都合があるけど、なんとかみんなで頑張っていこうという雰囲気を作っていかないといけません。

そのために、お金や法律と同じくらい大事なことがあります。トップのメッセージです。菅さんは官房長官としては非常に有能だったと言われていますが、官房長官と総理は大きく異なります。

官房長官は政府内部に様々な指示をしますが、これは上司としての立場です。丁寧に理由を説明したり、モチベーションを上げてあげようという工夫をそれほどしなくても、言うことを聞かせることも可能な関係です。

また、官房長官は記者会見で外向けにスポークスマン的な役割も担っています。ただ、官房長官がそれほど丁寧に説明しなくても、また発信力がなくても、それほど大きな問題にはなりません。国民が注目するのは圧倒的にトップの首相です。

僕が思うに、菅さんは権力やお金で動く人たちに言うことを聞かせるのはとても得意なのだと思いますが、自分の言葉で思いを伝えて共感を得て人を動かしていくという部分があまり得意ではないように見受けられます。

日本では、なるべく私権を制限しないで協力を求めるやり方でコロナを乗り越えようとしているわけですから、菅さんが総理になったタイミングは、過去のどの総理よりも、トップとしてのメッセージによって国民の共感を得る力が求められるタイミングだったと思います。

そういうタイミングで、自分の言葉で思いを伝えて共感を得ることが、あまり得意でない総理を見て、残念に思ったり、不安に思ったりした方も多かったように思います。

菅さんご自身も、そのことを気にされていたように思いますが、昨日の会見を見て、僕は総理は変わってきたのではないかと感じました。

具体的にどこがどう変わったのか、以下に書いてみます。

1. 明らかに低姿勢になった。
批判的な記者に対して、短く反論したり冷笑したりする態度は影を潜めました。その先にいる国民にどう見られるかということを気にしだしたのではないでしょうか。

2. プロンプターを使ったのはよかった。
これまで、手元の原稿を見ながら、下を向いて話す姿が多かったですね。おそらく原稿なしに語るのが得意ではないのだと思います。誤解のないように言うと、これは総理が判断していなくて官僚が作った紙をそのまま棒読みしているだけということではないんです。官僚が作る紙の内容を事前に判断をしています。
いったん判断した内容でも、メモなしで正確に話すのが得意でないのだと思います。であれば、メモがあることは仕方ないと思うのですが、どうしても下を見て話されると伝わりにくいです。
昨日の会見ではプロンプターを使っていたので、顔が上を向いていて大分印象が違いました。

3.決断に当たって悩んだということを素直に言ったのはよかった。
今回の問題は、すべての人に不都合のない結論はとれないという難しい問題です。居丈高に自分はベストな決断をしたと強く主張するのではなく、自分自身も悩みながら決断していると率直に言った方が、「すべての人に不都合のない結論をとれない難しい問題」ということが国民に伝わると思います。

4.自分の判断、責任を強調
以前は、自分は素人だから専門家の意見を聞いて決めているという言い方が多く、ともすれば専門家の先生方に責任を押し付けているように見られかねない発言が多かったですが、これでは、聞いている方は「そうか、この人が言うならついていこう」とは思えないですね。間違ったら専門家が悪いという態度にも見えかねませんから。
リーダーは100%の自信がなくても判断しなければいけない時があります。自分の判断だ、責任だとハッキリ言うことはとても大切で、そのような姿勢が信頼を増やすと思います。

5.若い人へのメッセージ
若い人に向けたメッセージを特別に出されたのはよかったと思います。これまで「国民目線」「国民の安心」など、国民という言葉を多用してきましたが、これを聞いても多くの方は「自分のことだな」と思わないのではないでしょうか。
国民といっても、本当に多様な立場の人がいます。それぞれの人に対して語りかけるべき言葉は違うはずです。もっと、伝える相手の解像度を上げて語ってほしいと思います。「受験生の皆さん」「学生の皆さん」「子育て中の親御さん」「中小企業の経営者の皆さん」「アルバイトで働いている皆さん」「高齢者のみなさん」「医療従事者の皆さん」「保健所の皆さん」など、もっともっと細かく伝える相手のことをイメージして、それぞれにメッセージを出していってほしいと思います。そうしたメッセージを考える中で、必要な政策も見えてくる可能性も十分あります。
僕も、菅さんの「伝える力」については、もう少し何とかならないかとずっと思っていたのですが、70歳を超えためちゃくちゃ偉い人でも変わろうとすれば変われるんだなあということも感じました。

完璧じゃないかもしれませんが、今のこの難局を乗り越えるために、他の人がトップになったら急によくなるわけでもないように思いますし、また政治的空白を作っている場合でもありません。

別に菅さんが好きとか嫌いとか、そういうことではなくて、リーダーとこの国にいる様々な立場の人との信頼の回復が難局を乗り越える鍵と感じています。

引き続き、菅さんの変貌を見つめていきたいと思います。


編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。