「不祥事を避ける企業」から「不祥事に負けない企業」へ-高まるコンダクトリスクへの関心

2021年02月04日 17:00

2月3日は全国財務局長会議にて、各財務局の局長さんに向けた講演をさせていただきました(リモートですが、万一の回線不良を回避するために近畿財務局に伺いました)。もちろん、財務省全体のコンプライアンス推進の一環として、外部講師の研修を受講することが主たる目的です。ただ、財務局は金融庁の事務委託の一環として、証券市場の健全性確保のための職務も担っています。そこで、金融機関だけでなく上場企業のコンプライアンスリスクについても理解を深めていただく必要もあり、お招きいただいたようです。

コンダクトリスク (KINZAIバリュー叢書) (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2020/12/15コンダクトリスク (KINZAIバリュー叢書) (日本語) 単行本(ソフトカバー)

コンダクトリスク (KINZAIバリュー叢書) (日本語) 単行本(ソフトカバー)

講演の中で「コンダクトリスク」についてもお話しさせていただきましたが、昨年12月から「勘違いの話だけはしないように、この本だけは事前に勉強しておかなければ」と思い、読了したのが画像でご紹介しております「コンダクトリスク」(東浩著 金融財政事情研究会 2020年12月24日初版)です。

著者である東浩弁護士は東京の田辺総合法律事務所のパートナーであり、法律雑誌「ビジネスロージャーナル」2019年12月号にて、コンダクトリスクへの企業対応実務を解説する論稿を発表しておられました。私はその論稿にとても感銘して、(恥ずかしながら告白しますと)さも自分が考え抜いた上での成果のように(笑)、いろんなところで講演のネタにさせていただきました※1。そのあたりのネタの内容は、こちらのエントリーをご参考にしてください。

※1・・・いちおう、講演の際には上記東弁護士のご論稿を紹介しております(言い訳)

なぜ今コンダクトリスクを学ぶべきなのか・・・一口に説明いたしますと「たとえ(役職員に)法令違反が認められないとしても、組織を取り巻くステークホルダーの期待を裏切るような行動を、役職員もしくは組織としての企業がとった場合には、その行動自体が社会的な批判にさらされ、組織の価値を毀損してしまう」という時代になった、ということです。金融機関だけでなく、一般の事業会社でも同様の事態となることは、近時の企業不祥事を眺めても明らかです。

(本書でも東弁護士が解説していますが)たとえば関西電力の金品受領問題では、受領した役員に刑事的な法令違反が認められないとしても、歴代の役員の方々が厳しい提訴リスクを負っています。「法律専門家の監査役が適法と意見を述べているのだから取締役会に報告しないでおこう」とか、(報酬補填問題について)「きっちり説明すれば適法であることは理解してもらえるが、『誤解を招くおそれがあるから』公表しないでおこう」といった対応こそ、役職員の行動(コンダクト)に問題があるということになります。

2050年脱炭素時代に向けて、関電さんは原子力エネルギーの比率を高めることを検討しておられますが、そのためにはこれまで以上に利用者(国民)との信頼関係、原子力事業の透明性(説明責任)を高めることは不可欠です。つまりコンダクトリスクは「守りのためのコンプライアンス」だけでなく、中長期の事業戦略の遂行にも不可欠な企業姿勢とも深い関わりを持ちます。誤解をおそれずに申し上げるならば、「一切不正行為はしない」という意味での信頼関係ではなく、「(リスクテイクの結果として)不正・不祥事が起きた場合には、逃げずにきちんと説明し、今後の対策を明らかにする」という意味での信頼関係が必要でしょう。「不祥事は絶対に起こさない」というカルチャーでは、おそらく今後も「不都合な事実は隠す」という方向性を軌道修正できないと考えます。

本書は、コンダクトリスク管理の手法や企業カルチャー醸成のポイント等を中心に、「企業不祥事に強い組織」を構築するための実践について、先行する海外の事例などを紹介しながら解説するものです。以前執筆しました拙著も少しばかり本書で引用していただいております。私個人としては後半の「行動規範改訂のポイント」が実務的にたいへん参考になりました(おそらく、個人で動いている私と、大きな法律事務所を動かしている著者との経験の差が如実に現われる点だからこそ有益に感じたものと思っております)。

本日の日経朝刊(13面)では、アップルとFacebookの間で、個人情報保護方針を巡って対立が深まっている状況が報じられていました。両社とも「自社の行動こそ最終利用者の利益保護につながるのだ」という意見をもち、アップルは「個人情報保護方針」に沿った行動を、そしてFacebookは競合事業を優越的地位の濫用によって阻害している、つまり、アップルの独禁法違反行為を批判する行動(提訴の可能性もあり)をとっています。両社の「正義」のうち、いずれが世間や(世界各国の)政府当局の支持を得るのか、おそらく私は「コンダクトリスク」への対応をきちんと説明できる側が有利に展開できるのではないか・・・と考えています(そのあたりは、また興味深い内容なので別エントリーで述べてみたいと思います)。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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